栗山英樹氏、WBC直前はプレッシャーで野球漫画を収集「変な追い込まれ方をしていました」
■監督として体験した「信じることの大切さ」
「選手の時以上に『信じること』の大切さを監督としてよく体験していました」という栗山氏。「例えばどうしても1点が欲しい局面で、レギュラーに託すか代打の切り札がいるのか控えが1人しかいないのか。采配は違ってもこっちは『この選手が絶対打つんだ』と信じて送り出さないと結果は付いてこないですね。本当に信じ切って『頼む、おまえしかいないんだ!』という空気を出したほうが、選手の立場でも大きな力を出せます」と力を込めた。
本好きで、今もよく書店巡りをしているという栗山氏だが、「父親が(『巨人の星』の)星一徹みたいに厳しい人で、ヤクルトに入団した後も合宿所から家に電話をかける時、敬語で話して選手に驚かれていました。そんな父親だけど、本だけは好きなだけ何でも買ってくれました」と回顧。
監督として決断を下す時に、膨大な本を読んできたことが頼りになったという。「もちろん情報は集めていくんだけど、最後は自分で決めないといけない孤独な立場です。そういう時に、過去の歴史ってデータの蓄積だなと思っていて。僕と同じような立場で困っていた人が過去の歴史の中に必ずいたはずなので、10年間のファイターズの監督時代には本からたくさんの事例を探りました。本で知った『こうしたほうがいいんだ』という気付きに助けられました」と振り返った。
さらにはWBCに備えて野球漫画まで集めたと語り、「WBC前にめちゃめちゃ野球漫画を買いました。そうしないと神様は勝たせてくれないんじゃないかのような、変な追い込まれ方をしていました」と、日本代表監督のプレッシャーを振り返った。
■「こっそりマスクを着けて自分の本を買ったり…」
膨大な蔵書は北海道の自宅や、教員を務める大学の研究室に「図書館のように」置いているという栗山氏。本へのこだわりはさらに続き、「今はよく本屋にも通います。誰にも気付かれないのですが(笑)、こっそりマスクを着けて自分の本を買ったりしています」と“お忍び”のような書店巡りをしていることも明かした。
「僕は新入団選手に本を配って『親や友人や教師に、『あなたはどういう人になってほしいか』を書いてもらい、僕からの言葉も書き込んでいました。紙だとなくなってしまうけど、本だとうまくいかなくなったときにモチベーションを上げることができます」と、書籍を通じた選手とのコミュニケーション術も明かした栗山氏。
「今年、NPB(日本のプロ野球)とMLB(米・メジャーリーグ)の現場を見てきましたが、野球にサイエンスが入って過去130年の中で最も激しく変わってきている時代です。僕ももう1回頭を真っ白にして野球を考えていかないといけませんが、本や先輩から学んだことから軸が見えてくると思います」と、球界への抱負を新たにしていた。
◆取材・文・撮影=大宮高史