レコード収集家のF.P.M.中嶋氏が3月上旬、あらゆる〝野球音源〟を紹介する「プロ野球音の球宴・ディスクガイド」を刊行した。そこには球団歌や応援歌はもちろん、野球選手のオリジナル曲やカバー曲、果ては選手と結婚したアイドルのシングルなど、幅広く掲載。野球・音楽を丸ごと愛する同氏に、野球音源との出会いや魅力について語ってもらった。

 ――そもそも野球との出会いは

 F.P.M.中嶋(以下、中嶋) 元々自分はぼんやりとテレビでジャイアンツの試合を見るぐらいの、特段野球好きという訳ではない子供だったんです。そんな中、小4の時に親が知り合いから日拓ホームフライヤーズ対阪急ブレーブスの年間指定席の券をもらってきまして。後楽園球場へ見に行って来いと渡されたんです。

 ――ある種偶然の出会いだった

 中嶋 いざ行ってみたら、同じ球場なのにテレビで見る巨人戦とは雰囲気がまるで違ったんですよ。プロ野球なのにスタンドもガラガラで…。ガラの悪そうな酔っぱらったおじさんの野次が、他に人がいないぶんよく通って(笑い)。しかもグラウンドでは張本(勲)さんや大杉(勝男)さんみたいなごつい選手が、派手なパジャマのようなユニホームでプレーしているんです。そんな目の前に広がる光景に衝撃を受けて、すっかりハマってしまいまして。そのまま後身のファイターズファンになりました。

 ――周囲にファイターズファンは?

 中嶋 当時は「少年ファイターズ会」っていう子供向けのファンクラブがあったんです。その会員証を見せれば後楽園球場の内野自由席にいつでも入れるという破格の特典がありまして。レプリカの帽子やグッズももらえましたから、同級生たちもこぞって入会していて、皆でのめり込んでいました。

 ――なぜそこから〝野球音源〟の収集へ?

 中嶋 一番最初に出会った野球音源は、75年にファイターズ会の入会特典としてもらった、中西監督・張本選手・新美(敏)投手の〝お話〟が収録されたソノシート(通常のレコードとは異なる、薄く柔らかい録音盤)です。ただ、集め出したのは成人してバンド活動を始めてからですね。

 ――まさか野球関連の曲でバンド演奏を?

 中嶋 いや、野球音源で何かをしていたということではなくて。むしろ当時はバンドに集中していて、野球に熱量を割けない時期でもありました。そんな時に友人と一緒に神戸に行って、元町高架下の中古レコード店に入ったんですよ。皆で思い思いのレコードを〝掘って〟いたら、偶然同行していたメンバーから「中嶋、野球好きだったよね? 選手が歌ってるやつがあるよ」って渡されて。それが阪急ブレーブスで外野手をしていた大熊忠義さんのシングルだったんです。確かに野球選手って曲を出してるな、ってそこで改めて気がついて。

 ――友人の思い付きがきっかけだった、と

 中嶋 特定のジャンルのレコードを集めることも特にしてなかったんですけど、それからは応援歌や球団歌を皮切りに野球音源をどんどん集めるようになりましたね。

 ――現在は野球音源を用いたDJイベントも開催中だ

 中嶋 持っている枚数も増えてきて、〝野球音源だけ〟のイベントもできるじゃないかと思ったんです。イベント会場には、パ・リーグのユニホームを着た方が多くいらっしゃいますね。

 ――なぜパ・リーグファンはユニホームを着用しがちなのか

 中嶋 そこは、セ・パのチームのファン気質みたいな部分が大きいかなと思います。パ・リーグはメディアの情報量なども、長年不遇な立場にあったので…。野球文化そのものを渇望しているファンの方の多さが、参加者数に影響しているのかもしれません。

 ――今回の書籍には756曲収録。この数字はやはり…

 中嶋 はい、王(貞治)さんのホームラン世界新記録です。この本の編集会議で、あまり野球に詳しくない方でもイメージできる数字ということで決めました。当時は新記録について連日報道されていましたから、あの時代を経験している方なら「王さんの記録ね」って連想してもらえるかな、と。

 ――楽曲の収集にかけた年月は

 中嶋 集めだしたのは90年代前半なので、かれこれ30年になります。今回掲載できなかった音源もありますから、合計では1000曲を超えていると思いますね。妻には迷惑をかけていますが、今もレコード棚にぎっしりと詰め込んで保管しています(苦笑)。

 ――書籍の中では楽曲を「1軍」「2軍」にふりわけた

 中嶋 イベントでアンセムとしてかけている楽曲は、1軍として前半のページに掲載しましたが、後半(2軍)に紹介したものも、決して内容が劣っているということではありません。中にはインタビューやドキュメントもののような貴重な資料もあります。

 ――インタビューのレコードなんて存在するのか!?

 中嶋 70年代はビデオテープが普及していませんでしたから。インタビューやラジオ中継をレコード発売するのが主流だった時代だったんです。

 ――野球選手の配偶者やお子さんがリリースした楽曲も「家族モノ」として紹介した

 中嶋 集めていく中で、未知の野球レコードとの出会いは減っていくんですよ。だんだんコレクションに行き詰まっていた当時、AKB48で活動していた倉持明日香さんの父親が元ロッテの倉持明さんだということを知って。そこから家族の出した曲も集めるようになりました。

 ――野球と芸能界は距離が近いのでしょうか?

 中嶋 80年代後半からの、いわゆるバブルの時代は野球選手がアイドル化して、バラエティー番組にも多く出演していまして。そのあたりから野球界と芸能界が密接になってきて、選手とアイドルの結婚も増えたし、そこから娘さんがアイドルになるという流れもできたのかなと思っています。本書でもたくさんのアイドル曲を「家族モノ」として載せているので、真面目な野球ファンから「これは野球音源じゃない」って叱られないか、戦々恐々としていますよ(笑い)。

(後編では中嶋さんおすすめの名曲や、野球音源を取り巻く環境の変化について聞きました)

☆えふぴーえむなかじま 1964年生まれ。野球レコード収集家。90年代初頭より野球にまつわる楽曲のコレクションを始め、98年からは〝野球音源〟のみを使ったDJイベントを開催している。今年3月には756の楽曲・音源を紹介する「プロ野球音の球宴・ディスクガイド」を出版した。