下克上の背景とは――。大相撲夏場所初日(12日、東京・両国国技館)、横綱照ノ富士(32=伊勢ヶ浜)をはじめ、大関陣も総崩れ。1横綱4大関全員が初日に黒星を喫したのは、昭和以降で初の異常事態となった。元大関琴奨菊の秀ノ山親方(40=本紙評論家)は、今回の番狂わせ連発の伏線を指摘。一方で、横綱大関陣のふがいない相撲内容には、強い危機感を募らせた。

 大波乱の幕開けだ。一人横綱の照ノ富士は、新小結大の里にもろ差しを許して後退すると、強引な小手投げも不発。すくい投げを打ち返されて苦杯をなめた。結びの前には霧島、貴景勝、琴桜、豊昇龍の大関陣が相次いで平幕に黒星を喫した。5人以上の横綱大関陣総崩れは、2006年秋場所6日目以来(当時は1横綱5大関)。初日では昭和以降初の異常事態となった。

 横綱大関の〝全滅〟について、秀ノ山親方は「勝たないといけないという気持ちが空回りして、全員が後手に回っていた。霧島は自信なさげに取っていた印象。琴桜は先代師匠のしこ名になってから初めての土俵で、重圧もあったと思う。貴景勝は電車道で持っていかれて、豊昇龍もガッチリ上手を取られて…。照ノ富士は、相手の大の里が横綱のような相撲を取っていた」と分析する。

 その上で「やはり、横綱大関がビシッと自分の力を見せつける相撲を取らないと、土俵が締まらない。これでは、番付の序列の意味がなくなってしまう。本場所の土俵はもちろん、普段の稽古場から強さを示しておくことが大事になってくる。相手に自信を持たせるような相撲内容だと、番付の秩序は守れない」と番付崩壊への危機感を口にした。

 一方で、秀ノ山親方は3月の春場所が今回の〝下克上〟の伏線になったとみる。先場所は横綱大関陣が優勝争いから脱落する中、幕尻の尊富士が110年ぶりとなる新入幕Vを達成。最後まで賜杯を争ったのは、幕内2場所目の大の里だった。「優勝を逃した大の里は今場所にかける強い思いが相撲に表れていた。三役より下の力士たちも〝俺もいけるぞ!〟と自信を持って上位に立ち向かっている」と指摘した。

 ただ、このまま横綱大関が引き下がるようでは今後の場所の盛り上がりにも水を差しかねない。秀ノ山親方は「まだ場所は始まったばかり。横綱大関はうまく気持ちを切り替えて、ここから強さを見せてもらいたい」と奮起を促した。