パ・リーグの若き指揮官2人がBクラスに甘んじるチームとともに苦しんでいる。今江敏晃監督(40)率いる楽天は16日時点で借金4の4位。松井稼頭央監督(48)が指揮を執る西武に至っては、両リーグ最多の借金11で最下位に沈んだまま深刻な低迷にあえぐ。一体、何が歯車を狂わせているのか。PL学園OBで両者の先輩でもある本紙評論家・得津高宏氏がタブーとも言える〝見えにくい深層〟にメスを入れた。

 快調に貯金を重ねるパ首位・ソフトバンクと2位・日本ハムの後塵を拝し、両球団の背中がどんどん遠のいていく。借金1ながらも3位に食い込むロッテを何とか追いかける立場だが、現状で楽天と西武はBクラスだ。ここまでは明らかにファンの期待を大きく裏切り続けている。

 悪戦苦闘が続く楽天・今江監督と西武・松井監督は、ともにPL学園出身。かつての甲子園常連校で名門野球部の一員として鍛え上げられ、プロ野球界でも実績を積み重ねたはずの2人が今、指揮官になって巨大な壁にぶち当たっている。

 同校OBの得津氏は後輩にあたる今江監督と松井監督が抱え込む共通の苦悩について「明らかにソフト路線が足かせになっている」と指摘し、次のように続ける。

「とにかく今江監督も松井監督も優しすぎるんですよね。確かに今の時代はコンプライアンスが厳しく、選手にカミナリを落とそうものなら『パワハラ』と逆に球団側へ訴えられかねない。特に楽天や西武は12球団の中でもモラルに厳格だから監督を筆頭に首脳陣が『絶対に怒ってはいけない』という過剰な認識が染み付いてしまっているのだと思います。だからこそチーム全体が危機的状況に陥っているにもかかわらず、いわゆる〝ユルフン〟になってしまっているところもあるのでしょう」

 指揮官2人の頭を悩ませる要因は、今の時代の怒りたくても怒れない〝指導の制限〟にもあるという。

「自分で考える」ことが主流となった現代野球において選手は自分で練習方法を選択するようになり、監督やコーチはアドバイザーのような立ち位置となった。その上で得津氏は「球団によってはコンプライアンスを配慮した結果、選手に怒らないように注意するチームもある」と補足する。こうした〝令和の時代〟におけるプロ野球指導者と選手の距離感について「難しい問題」と前置きしながらも2人の後輩に対し、時には厳しい指導も不可欠であることを強い口調で訴えた。

「厳しさが肥やしになることもあるんですよ。その時はつらくても、何年後かに結果が出た時に『あの時、厳しく言ってもらってよかったな』と思えるんです」

 得津氏は決してパワハラまがいの厳しい指導が正義と言い切っているわけではない。選手を長期的ビジョンで育成していくためには時に厳しく叱咤しながら、アメとムチを使い分けるように「おだてる」ことも念頭に置かなければいけないと指摘する。

「怒ってばかりじゃダメですよ。試合で使って結果を残したらほめる。そうすることで、選手も自信をつけていいプレーができるんです」

 試合で起用しても結果が出なければ、ほめることはできない。その一方、怒ることもできない。となれば首脳陣は「何も言わない」ことになる。この〝負の構造〟こそが「悪循環になる」と得津氏は警鐘を鳴らす。

「結果が出なければ自信はつかないですよ。でも首脳陣は何も言えない。そうなると何も言われないのが、当たり前になり『これでいいんだ』と思う選手もいるわけです。今の選手には〝こんちきしょう!〟という気持ちが足りないですね」

 まだ5月とはいえ、両軍は光明が差さず迷路から抜け出せずにいる。若き指揮官たちは幾多の試練を乗り越え、浮上のきっかけを見いだせるか。