2020年、青森県七戸町で事故を装い知人男性を除雪機でひき殺したなどとして、殺人、殺人未遂など七つの罪に問われた本籍七戸町、住所不定、無職の被告(37)の裁判員裁判判決公判が22日、青森地裁で開かれる。被告は詐欺を除く殺人、殺人未遂、放火について「何もやっていない」と関与を否定。検察側は懲役30年を求刑、弁護側は執行猶予付き判決を求めている。直接的な証拠がない中、検察側が積み上げた状況証拠を裁判所側がどう判断するかが最大の焦点となる。

 中古重機買い取り販売会社を営んでいた被告が20年12月23日、重機売買でトラブルがあった取引先の工藤勝則さん=当時(64)=を、同町の被告実家敷地内で除雪機でひいて殺害したとされる殺人罪と、その3カ月前に八戸港で工藤さんを車の助手席に乗せたまま海に転落させたとされる殺人未遂罪の成否が量刑に大きく影響する。

▽殺人

 工藤さんが除雪機の下敷きになった際の目撃情報はなく、工藤さんの頭にあった陥没骨折の原因、現場に残されたバールの関わりなどは公判で明らかにされず状況は不明な点が多い。

 検察側は専門家の証言などを踏まえ、後退する除雪機がうつぶせになった工藤さんの頭から乗り上げ、背中で止まったとする。再現実験によると、この動きは人が操作しない限り想定しがたく「事故なら不自然」と指摘。足払いやバールで殴るなどの例を挙げ、有形力を行使して工藤さんをうつぶせにし、除雪機を後退させた後、機体を持ち上げるなどし、頭に乗り上げさせた−と主張する。

 被告は工藤さんが勤める会社から約1千万円、重機1台を着服し返還を求められていた。殺害は口封じが目的で「被告が犯人ならば全ての事実が合理的に説明がつく」とした。

 弁護側は、被告と工藤さんが被告実家前で最後に目撃されてから、工藤さんが除雪機の下で見つかるまでの30分間を重視。被告の供述や被告の妹の証言から、被告は当時現場におらず「検察官は被告が現場にいたことの証明をしていない」と反論する。

 さらに、工藤さんをうつぶせにした点に関し「具体的な方法の立証がない。現場に落ちていたバールと、工藤さんの頭の傷との結びつきを示す証拠はない」、「検察の主張は合理性を欠く」と強調する。

▽殺人未遂

 海中転落した車は後輪ブレーキホースが切れていた。検察側は、専門家の証言から人為的に刃物で切られているとし「切断機会があったのは被告のみ」と指摘。その上で、後輪ブレーキホースが切れていても前輪ブレーキで制御でき、ハンドル操作によって転落は避けられたと訴えた。

 事故を主張する弁護側は転落以前、悪路走行中に木や石が当たりブレーキホースが切れた可能性を提示。被告はブレーキの利きが悪く、焦りからハンドル操作を誤ったと主張した。

 ◇

 初公判から判決まで97日。県内最長となる裁判員裁判は22日午後1時10分から、判決が言い渡される。