日本ダービー2023

[GⅠ日本ダービー=2023年5月28日(日曜)3歳、東京競馬場・芝2400メートル]

【トレセン発秘話】青葉賞組はダービーを勝てない――。皐月賞馬ソールオリエンスを負かし得る逸材として、第90回日本ダービー(28日=東京芝2400メートル)で注目を集めるスキルヴィングを買う手が止まってしまうのは冒頭のジンクスがあるがゆえ。今年もまた…。いや、我々は新たな歴史の目撃者となる。管理する木村哲也調教師(50)が用意周到に温め続けてきたジンクス打破への長期計画が目下、進行中。その全貌を藤井真俊記者が明らかにした。

 今年の日本ダービーはまさかの“東高西低”となった。このままいけば、フルゲート18頭の半数を超える10頭分の枠を関東馬が占めそうなのだ。自分が競馬記者になって3年目の2006年は、関東馬の出走がわずか1頭(ジャリスコライト=14着)だけだったことを考えると、隔世の感がある。

 しかも数だけでなく、質も伴っている。皐月賞の1、2着馬に加え、トライアルの青葉賞1、2着、プリンシパルSの勝ち馬…すべてが関東馬なのだ。“西高東低”と言われて久しい競馬界だが、確実に時代は変わったと感じずにはいられない。

 時代が変われば、ジンクスも崩れる。クラシック第1冠では“京成杯の勝ち馬は皐月賞を勝てない”とのジンクスをソールオリエンスが覆したばかり。今度は“青葉賞の勝ち馬はダービーを勝てない”が覆される番だ。

 少なくとも青葉賞の勝ち馬スキルヴィングを送り出す木村調教師はそう信じている。青葉賞経由での臨戦について尋ねると、トレーナーはキッパリとこう答えた。

「ゆりかもめ賞を勝った時点で、皐月賞は飛ばして、青葉賞からダービーに向かうローテーションを提案させていただきました」

 すなわち、結果的に歩まざるを得なかった受動的なローテーションではなく、自ら進んで選んだ能動的なローテということ。そしてトレーナーはこう言葉を続けた。

「これまで多くのホースマンがチャレンジを重ねて、悔しい思いもしてきました。自分自身も失敗したり、青葉賞で手一杯になってしまったこともありました。そういう中で今回は青葉賞とダービーを“ひとつ”と捉えて準備をしてきたんです」

 これを聞いた瞬間、思わず耳を疑った。ふたつのレースを“点と点”と表現したり“線”と表現するのはよく耳にするが、ふたつのレースを“ひとつ”と表現するのは初めて。だが、これで1週前追い切りの内容にも合点がいった。

 17日の南ウッドでスキルヴィングがマークしたタイムは5ハロン67・7秒という平凡な数字。5ハロン64・7秒の好時計だった同厩のノッキングポイントとは対照的で「青葉賞の疲れが残っているのでは?」と疑ってしまったほど。しかし、トレーナーの話を聞いたことで、自分の考えはまったくピントがズレていたことに気付いた。

 2か月ぶりの実戦となるノッキングポイントはハードに攻められて当たり前。対してスキルヴィングは青葉賞とダービーという“ひとつ”の只中(ただなか)にいるのだから、従来の枠組みで捉えてはいけないのだ。

「デビューしたころは、まだ仕事に対してポジティブではありませんでしたが、だんだんと彼の中で仕事が明確になり、それに伴って馬が良くなってきましたね。ゆりかもめ賞後は疲れを取るのに苦労しましたが、今回はそれほどでもなかった。タフになってきたんだと思いますよ」とトレーナーは“プロジェクト”の順調な進行ぶりに目を細める。

 ダービー当日まで残すところ1週間を切った。果たして陣営はどのような調整過程でレース本番を迎えるのか。その一挙手一投足から目が離せそうもない。

スキルヴィングが見つめる先には悲願のダービータイトルが待っている

著者:藤井 真俊