マスクトディーヴァはオンとオフの使い分けができる賢い馬だ
マスクトディーヴァはオンとオフの使い分けができる賢い馬だ

ヴィクトリアマイル2024

[GⅠヴィクトリアマイル=2024年5月12日(日曜)4歳上牝、東京競馬場・芝1600メートル]

 今週日曜のGⅠ・ヴィクトリアマイル(12日=東京芝1600メートル)で人気を集めるのは、昨秋、突如としてベールならぬ仮面を脱いだマスクトディーヴァだ。驚異のレコード勝ちに続き、3冠牝馬を猛追――実はその時点でまだまだ完成途上だったというから驚きだが、年齢を1つ重ねた今、陣営も目を細める成長を見せている。大人の階段を上りつつある歌姫。その先に待つのは新女王の称号だ。

「パッと見ただけで、“ああ、いい馬だ”って分かるような体になってきました」

 マスクトディーヴァを見つめながら、そう言って目を細めた辻野泰之調教師。この言葉を聞いて、“前からいい馬だったじゃない”と思われるファンの方もいるでしょう。でも、そういう意味ではないんです。3歳時にローズSをレコード勝ちし、展開不向きだった秋華賞でも絶対女王と言われたリバティアイランドに1馬身差まで迫ったマスクトディーヴァですが、当時はまだまだ体が完成していないと言われていました。それは辻野調教師だけでなく担当の黒川助手、そして厩舎で彼女に乗ったことのある助手さんみんな同じ意見で、緩さが目立っていたそうです。それもあり、雨が降って馬場が重たくなったりすると、自分でバランスを取って走れなかったりしました。

「その中でも、こちらが期待している以上のパフォーマンスを発揮してきてくれた。普通ならガタッときてもおかしくないところなんですが、そういうこともなく、むしろどんどん成長し、良くなってきたんです」

 この辻野調教師の言葉が、冒頭につながります。前走はモレイラ騎手が2ハロン標手前で手綱を落とすアクシデントがありました。それをグッと前に腕を伸ばし、すぐに拾い上げたモレイラ騎手もすごいですが、マスクトディーヴァの強さもより際立ちましたよね? モレイラ騎手は「勝てると分かっていたけど、もしステッキを入れていたら3馬身は突き抜けていた。それくらいの手応えだった」とおっしゃっていたそう。とにかく自由自在で、追ってからのはじけっぷりが素晴らしいんです。残る課題があるとすれば、2走前の東京新聞杯で観客席から悲鳴が上がったゲート。前走はタイミングが合ったけれど、何回か潜ろうとしていました。

「本当に賢い子で…賢すぎて、練習だと何にもしないんですよ。中でもボーッとしていて、馬房の中にいるときみたいになります。練習だと分かっているんですよね」とは辻野調教師。つまり中が怖いわけではなくて、競馬に行って極限状態になったときのテンションが影響するのでしょうが、“それでも、覚えてくれたら”としっかり練習を行ってきました。当日は前走と同様、ゲート裏までメンコを着けて挑みます。モレイラ騎手は「大丈夫だ」と心強い言葉をくださったそうですし、前走でも「終始余裕があった」というくらいなので、GⅠの舞台で本格化した姿を発揮できさえすれば、おのずと結果はついてくるはずです。

著者:赤城 真理子