親の病気や離婚、虐待などの理由で、実親が育てることができない子どもがいる。特別養子縁組は、生みの親との法的な親子関係を解消し、家庭裁判所の決定を経て、育ての親との間に新たに法的な親子関係を結ぶ制度。子どもの福祉の増進を図り、子どもは生涯にわたり安定した家庭生活を送ることができる。

川崎市は、養親となるまでの伴走型支援や、養親になった後のアフターフォローを菅にある養子縁組里親支援機関「かわさき里親支援センターさくら」(運営:社会福祉法人厚生館福祉会)に業務委託している。

同センターの統括責任者を務める溝部聡子さん(32)は「子どもの人生にとって、大変重要な決定。子どもの最善の利益の観点から慎重に判断されなければならない」と思いを語る。

周りに相談できる人がいない、金銭的な理由で病院に行けないなどさまざまな理由で、公園や自宅で子どもを産むケースも。生まれてすぐに命を落とす「生後0日虐待死」という事件も現実に起こっている。「虐待や生みの親との分離など、過酷な状況を生き抜いてきた子どもたちが安心して健やかに成長していくために、特別養子縁組という選択がある」と溝部さん。

同センターでは、子どもが地域で育っていくために、地域社会に「特別養子縁組」への理解を深めてもらうことが重要だと考えている。「『知らないこと』が思い込みや偏見を生んでしまっている現状を変えなくてはいけない」と溝部さんは主張する。特別養子縁組成立後も、育ての親が悩みや不安を抱え込まずに養育を行えるように同センターでは、アフターフォローにも力を入れているという。

出自を知る権利

溝部さんは、子どもの「出自を知る権利」の重要性も訴える。「生んだ親のことや特別養子縁組制度を選択した理由を子どもは知る権利がある。そのこと自体が社会的に広まること、国としての取り組みに期待している」と述べた。

子どもを迎えて

数年前に特別養子縁組制度で、男児を迎えた市内在住の50代夫婦は「ご縁のあった息子は知的障害を伴う自閉症っ子。障害児の子育ては手探りでとても大変ですが、たくさん泣いて笑って、親子共々、にぎやかにゆっくり成長している」とコメントを寄せた。溝部さんは「特別養子縁組は子どものための制度。困難のある子こそ、自分のことのように、むしろ自分のこととして、真剣に悩み、共に苦しんでくれる『親』という存在が必要」と話し、「まだまだ、特別養子縁組の内容を知らない人が多いのが現状。子どものための制度を知る機会を作っていきたい」と前を向いた。