核兵器のない世界の実現に向けて、政府に意見書を提出してほしい――。79年前、広島に投下された原子爆弾で被爆した男性の切なる願いを込めた陳情が6日、藤沢市議会総務常任委員会で賛成多数の趣旨了承となった。27日の本会議で可決されれば、同市議会が政府に対して意見書を提出する見通しだ。

核兵器の開発や保有、使用などを禁止する核兵器禁止条約は2017年、国連で採択され21年1月に発効。日本政府は批准しておらず、これまで2回の締約国会議にオブザーバー参加もしていない。

陳情者は稲荷在住で藤沢市被爆者の会前会長の垰下(たおした)雅美さん(87)。8歳のとき、爆心地から電車で40分ほど離れた疎開先の村で被爆した。

幸い家族は無事だったが、数日すると次々に村に負傷者が運ばれた。並べられた寺の境内ではいたるところでうめき声が聞こえ、日を追うごとに声の主は亡くなっていった。「人が人でなくなる惨事を目の当たりにした。地獄だった。一日も忘れたことはない」。陳述理由をそう述べた。

50代になって藤沢に移住。「あんな悲惨な経験は二度とあってはならない」と平和活動に熱心に取り組んできた。

陳情のきっかけは、自身が脚本を書いた朗読劇が市内で上演され、関係者に背中を押されて。過去2度、同じ趣旨の請願が本会議で不採択となった経緯があったが、気力を振り絞って賛同者4人と提出することにした。

「核兵器廃絶平和都市」を宣言し、「核兵器廃絶平和推進の基本に関する条例」を制定する市を「誇りに思う」と垰下さん。「市民の代表である議員が積極的に政府に働きかけることに意義がある。本会議の結果を見守りたい」と話した。

この日は県被爆者の会など3団体が同様の陳情を提出。一括審議で趣旨了承となった。