それにしても、あのとき調教師を目指さなくて本当によかった。

結果論だが、あの状況で「ジョッキーがダメなら調教師に……」なんていう考えで仮に転身できたとしても、うまくいくはずがないのだ。なぜなら、何の行動も起こさず、頭の中だけで自分を追い込んで、自分で自分に言い訳し、今いる場所から逃げようと思っていただけなのだから。

もし、あのときに調教師を目指していたら──ほんの少しのボタンのかけ違いで、良くも悪くもまったく違う人生につながる。そう考えると、背筋が凍る思いだ。

リーディングなんて獲れるわけがない

何かで一番になりたくてこの世界に入ったからには、当然「いつかはリーディングジョッキーに」という思いはあった。

自分がデビューしてからというもの、2008年まで全国リーディング1位はずっと(武)豊さんで(2001年のみ蛯名正義騎手※現調教師)、なかでも2003年から2005年は3年連続年間200勝超えと、それはもう圧倒的だった。

2003年は2位の(柴田)善臣さんと85勝差、2004年の2位も善臣さんで66勝差、2005年は2位のノリさん(横山典弘騎手)と78勝差。この2位との差を見れば、いかに独走状態だったかがわかるだろう。

そんな圧倒的な差を見せつけられているうちに、自分も周囲もいつしかあきらめの境地に。実際に「リーディングなんて獲れるわけがない」と口に出してもいた。

でも、たった一人、そんな空気を断ち切ろうとしていたのが岩田くんだった。彼は〝テッペン〟を獲るために中央に移籍したと言い、その熱い思いを自分にもぶつけてきた。

「祐一くん、世代交代を実現させるために、一緒に戦おうや。二人でもっともっと上を目指そう」

そんな岩田くんに対し、自分がどう答えたかというと……

「うん……。でも無理だよ。無理だって(苦笑)」

完全に牙を抜かれていた。そんな自分に、

「祐一くん、そんなんじゃアカン。一人では世代交代はできひん。一緒に上を目指そうや」

岩田くんはそう言って、何度も何度も発破をかけてくれた。すぐには同じ気持ちになれなかったが、岩田康誠という存在、そして彼の言葉の数々が、自分に変化をもたらしたのは紛れもない事実。

自分が進化しなければ、そんな岩田くんとも対等に戦うことはできない。初めて自覚した嫉妬心は、こうして大きな変化のきっかけになったのだ。