そのような工場は「10億円の工場・設備への投資。運転資金などで5億円、合計で15億円ほどあれば十分に可能だ」と源兵衛氏は述べる。

そして、この投資資金を集められるか否かが、各織元の未来を決するようにも聞こえた。

「投資」という意思が「西陣織の美と伝統」を紡ぐ

現在、2024年は新NISAが開始され、多くの個人のお金が「貯蓄から投資」へ動き出している

また、政府は2019年、新NISAへの投資額を56兆円へ倍増させるとの目標、つまり先5年で約30兆円の増加を見込んでいた。

ここで、簡単な算数の頭の体操をしてみよう。

仮に先5年、個人の新NISAに向かうお金の1000分の1(たとえば月々3万円投資する人であれば月々30円、1万円ならば10円)が西陣織産業に向かえばどうなるか。

その総額は300億円になり、これは20の織元が後継者問題を解決し、世界へ向けて戦える資金調達を完了できることを意味する。

日本の伝統工芸「京都・西陣織」が消滅するか、生き残るか、その「選択肢」は私たちにもある(写真:WealthPark研究所)

さまざまな産業があるなかで、西陣織の復興への投資を、日本人全体で受け持つ道理はない。

そして、新NISAにおけるコンセンサスとなっている「長期・分散・積立のパッシブ投資」は、日本人が国際社会の中で21世紀を豊かに幸せに暮らすための必要な土台になると、私は強く思う。

この頭の体操から伝えたいことは、「たとえわずかな金額でも、個人が何らかの意思を持ってお金を振り向けることが、社会を大きく変える可能性がある」という投資の本質的なリテラシーだ。

社会を豊かにする行動とは、皆がやっていることを「右へ倣え」で行うことだけには決してない。

それは、我々一人ひとりが社会の現状を理解し、自分の頭で考えて行動することにある。

投資とは、人々の社会の豊かさと幸せのためにある

西陣織というひとつのテーマからも、「個人の意思のある行動が豊かな未来をつくっていく」こと、つまり「我々一人ひとりが社会の未来をつくっている」ことを学び、感じることができると思う。

「個々人の投資リテラシーの高さ」とは、「社会の豊かさ」そのものなのである。

著者:加藤 航介