一方、この公式晩さん会の翌日の11日午前(日本時間12日未明)、アメリカ連邦議会の上下両院合同会議での岸田首相の演説とその反応も、日本のメディアがこぞって取り上げた。日本の首相としての議会演説は、2015年の安倍晋三元首相(故人)以来、2人目だったが、岸田首相がいつものメモの棒読みではなく、議場内を見回しながらふんだんにジョークを盛り込んで語り、随所でスタンディングオベーション(立ち上がっての拍手喝采)を受けたことが、大きな話題となったからだ。

まず、演説の冒頭に、岸田首相が「日本の国会では、これほど素敵な拍手を受けることはまずありません」といたずらっぽい笑顔でジョークを飛ばすと、議会内は盛大な笑いと拍手に包まれた。さらに岸田首相は、自らが小学校時代をニューヨークで過ごしたことを紹介したうえで、当時のアメリカでの人気アニメ「原始家族フリントストーン」の決め台詞にも触れて再び笑いを誘うなど、「生真面目さが売り物のはずの岸田首相の、新たな一面」(官邸筋)を披露してみせた。

「中国批判」に議員が総立ちで拍手したが…

その一方で、いまアメリカ側が大きな関心を持っている、軍事や経済、先端技術などでの中国との競争について、岸田首相は「中国の姿勢や軍事動向は、国際社会全体の平和と安定にとって、これまでにない最大の挑戦をもたらしている」などと訴え、これも議会内が総立ちで拍手した。

ただ、こうした岸田首相の一連の“訪米パフォーマンス”については「今回の首脳会談は『日米同盟の深化』の掛け声の下、軍事的な一体化が推し進められた。日本周辺での有事発生の際には、在日米軍ではなく、自衛隊が主体的に役割を果たすことを世界に発信した格好だが、国内論議も十分でないだけに、厳しい批判を招く」(政治ジャーナリスト)との指摘も少なくない。事実、16日には国会審議で野党側が厳しい追及を展開した。

今後の国会日程をみると、18日に衆院、19日に参院の本会議で、今回の訪米報告とそれに対する質疑が行われるが、岸田首相が防戦に大わらわとなる場面も想定される。さらに、来週の22日に衆院、24日に参院の予算委で「政治と金」に関する集中審議が予定されている。

そのうえで迎える4.28トリプル補選が“自民全敗”となれば、「岸田首相の求心力はズタズタになるのは確実」(自民幹部)との見方が支配的。にもかかわらず、岸田首相周辺からは「すべて想定内で、岸田首相は会期末解散に突き進む考えは変えていない」(岸田派幹部)との強気の声が漏れてくるだけに、与党内には「連休前後は何が起こるかわからない」(公明党幹部)との不安が広がるばかりだ。

著者:泉 宏