ただ、現状で国内の製薬会社・漢方薬メーカーが王子HD産の甘草を積極的に活用するかについては不透明だ。理由は3つある。

まず1つは、中国からの甘草の輸出が目に見えて減っている訳ではないことだ。確かに中国産生薬の輸出規制などつねに政治的なリスクはつきまとう。ただ、現状で喫緊の課題としてそれが顕在化している訳ではない。

2つ目は甘草に含有されているグリチルリチン酸の量の問題だ。中国で自生している甘草にはグリチルリチン酸が3〜5%も含有されているものが多いという。

一方、王子HDが大規模栽培に成功した国産甘草は、日本薬局方で定められた甘草の有効成分基準である2%を超えているが、野生の甘草よりも含有量は少ないと見られる。価格面でも自生している甘草のほうが安く、含有量や価格面を考えると、国産甘草が中国産にすぐに取って代わるということは考えにくい。

3つ目は薬価の問題だ。漢方薬には公定価格が決められており、現状では中国産に比べて、生産コストが高い国産の栽培甘草を取り入れる動機に乏しいと見られる。

ただ、国産の甘草が中国産に比べて、品質で見劣りするということでは決してない。王子HDが現在力を入れているのが食品や化粧品など漢方薬以外の用途での活用だ。

1万トンのうち8割は食品、化粧品などの用途

「あまり知られていないが、国内で流通している甘草は漢方薬など医薬品の用途よりも、食品や化粧品などほかの用途のほうが多い」(八田氏)

北海道医療大学薬学部の高上馬希重教授らが2011年に甘草について研究した成果報告書によると、甘草の国内の輸入量は年間約1万トンとなっている。漢方薬など医療用途では約2000トンと2割程度に過ぎない。

甘草はその名称の通り、食品に甘みを加える添加物(甘味料)などで広く使われている。たとえば国内では、醤油や味噌などに甘草抽出物の「グリチルリチン酸二ナトリウム」が配合されているうえ、飲料やお菓子の添加物としても使用されている。

「当社が育てた甘草をエキスやパウダーにして口にすると、野生の甘草とは違った風味がする。食品との相性は非常に良く、その強みを打ち出していきたい」。八田氏はこのように語る。