また、かつて3年間ほど同区のSCをしていたという女性(30代)は「勤務日と時間は学校と話し合って決めるので、日程は年間を通してあらかじめ設定されていました」と区教委の説明に首をかしげる。そのうえで交通費や有給休暇、妊娠出産休暇などの福利厚生は皆無(区側は交通費は謝礼金に含まれると説明)。保育園の入園申請などに必要な就労証明書も発行できないと言われたという。

「福利厚生費を抑えるために名称をボランティアに変えただけ、という話は現場でも耳にしました。仕事は都のSCとほぼ同じでしたから、やっぱりボランティアとしての採用には違和感がありました」

「子どもや保護者との関係崩壊の始まり」

都よりも待遇の低い自治体に応募が殺到し、さらには職員ですらない有償ボランティアという形まで――。雇い止め後の“余波”をめぐる混乱は、あるSCの次の言葉に集約されるのではないか。

「SCの雇用の“値崩れ”が始まる……。それは子どもや保護者との関係崩壊の始まりなのではないでしょうか」

“余波”は雇い止めにされた当事者以外の間でも広がっている。取材では任用継続されたSCからも話を聞いた。そこで異口同音に返ってきたのは「明日は我が身」という答え。

勤続20年の白石しずかさん(仮名、40代)は取材中、一貫して怒りを隠そうとしなかった。白石さんによると、働き始めた当時はSCの全校配置が進みつつあった時期でもあり、学校現場からの警戒感が強かったという。

「『異物が入ってきた』という空気を感じました。先生にあいさつをしても無視されることだってありました。そんななか、私たちの世代はSCが受け入れられるよう、必要とされる存在になるよう努力してきました。でも、今回、そういう時代を一緒に乗り切ってきた尊敬するSCたちが理由も分からないまま何人も雇い止めにされました」

白石さんの怒りのボルテージが上がったのは、雇い止めにされた250人に代わり、今後は教職員OBのSCが増えるのではないかという話題に触れたときだった。

SCに必要な資格のひとつである公認心理師は、導入直後の経過措置期間(2022年まで)のうちは一定の要件を満たせば、臨床心理士のように大学院などで学ばなくても取得することができた。関係者の間では、今後このルートで有資格者となった教職員OBのSCが増えるのではという予想が広がっていた。

臨床心理士の資格を持つベテランSCらの懸念は、自らの仕事が奪われることというよりも、SCに求められる「外部性」が損なわれるのではないかということだった。子どもたちからの相談を受けるうえで、学校側との利害関係がなく、成績などをつける教員とも立場の違う「外部の人間である」ことの重要性については、文部科学省もホームページなどで同様の見解を示している。

教職員OBがSCになったとき、果たして外部性はどこまで担保されるのか。

白石さんは教職員OBの資質や熱意が劣っているわけではないとしながらも「現場の先生からは『元校長に自分の悩みなど話せるわけがない』という声も聞いています」と指摘。そのうえで「同様の問題は東京以外にも広がっていくと思います。雇い止めにならなかったSCはもちろん、全国のSCにもぜひ自分事として考えてほしい」と呼びかける。