とるべき道はふたつにひとつだ。お金のかかる研究を行ってやっと得られた科学的なエビデンスを信じて、確実で正しい肥満の理論を導き出すか。それとも、科学を無視して、従来の考え方や偏見を信じつづける道を選ぶか。

後者を選ぶのであれば、何の苦労もないし想像力が試されることもない。かくして、この画期的な研究の結果はほぼ忘れ去られ、栄養学の歴史においては取るに足らないものとされた。それ以降、私たちは、肥満と2型糖尿病の患者が爆発的に増えるという報いを受けてきたのである。

カロリー制限をしても99.4%の確率で減量に失敗する

実際の臨床場面でも、これが大失敗であることを裏づける結果ばかりだった。

減量のためにカロリー摂取を制限するという従来の方法の失敗率は99.4%と試算された。病的な肥満の人の場合、失敗率は99.9%におよんだ。この数字をみてもダイエット業界の人は特に驚きもしなかったし、減量しようとしたことがある人も驚くことはなかった。

摂取カロリーと消費カロリーの差が体脂肪になるという理論は、直感的に正しいような気がするために広く信じられた。だが、腐ったメロンのように、この理論も外側の皮をむけば中は腐っている。

単純化されすぎたこの理論は、誤った想定に基づいている。最も大きな誤りは「基礎代謝率、あるいは消費カロリーはつねに一定である」という想定だ。実際は、摂取カロリーを40%減らすと、すぐに基礎代謝率が40%減る。結果として、体重は減らない。

「体重は意識的にコントロールできる」というのも誤った想定だ。

人間の身体機能はどれも意識的にコントロールすることはできない。甲状腺、副甲状腺、交感神経、副交感神経、呼吸、血液の循環、肝臓、腎臓、消化管、副腎などの働きはすべて、ホルモンによって緻密にコントロールされている。体重や体脂肪率もホルモンによって厳格にコントロールされている。

実際、人間の体には体重をコントロールするために重層的に働くシステムがいくつもある。自然界で生き延びるのに最も大切なもののひとつである体脂肪を決定づけるのが、私たちが気まぐれで口にする食べ物だけであるはずがない。