――世界3大映画祭などで評価される映画が、人気ドラマやアニメの実写化ばかりがヒットする日本の映画興行で、興収50億〜100億円ほどの商業的な大成功を収めることはほとんどありません。これを両立させるのは難しいのでしょうか。

難しいと思います。そもそも自分の場合は、日本で大きくヒットして商業的に成功することを期待して作っているわけではありません。そんなこと言っちゃいけないかもしれませんが(笑)。

ただ、「小規模な映画作り」と言っても、映画を作り続けるためには、ある程度の観客に認知されて、興行を成立させないといけないというプレッシャーはあります。

濱口竜介 ドライブ・マイ・カー 悪は存在しない 『悪は存在しない』(C)2023 NEOPA / Fictive

そういうなかで、国際映画祭に出すことになるわけですが、自分がいいと思う映画を作って日本で大ヒットさせるのは、かなりの離れ技になる気はしています。

日本映画界の長年の課題への思い

――それが両立しない、日本映画界の現状の課題をどう見ていますか?

たとえばフランスだと、アート系の映画でもかなりの観客が入るので、とてもうらやましい状況です。フランスでは小中高校と、映画が教育プログラムの中に組み込まれていることも大きいでしょう。日本では幅広い世代において、映画館に行くという習慣がどんどん薄れています。

是枝裕和監督の『怪物』は興収が20億円を超えたそうです。映画祭での受賞だけが要因ではないでしょうが、是枝さんのように着実にキャリアを重ねれば、国内でも毎作話題になり、関心が集まるということだとは思います。これは希望ですし、若い人が目指すところでもあるでしょう。

ただ一方、映画好きなコアファンの裾野はまったく広がっていない。そのことはミニシアターの窮状を伝え聞くとわかります。これをどう変えられるかと問われれば、基本的には変えられないと思います。

自分にできるのは映画制作を続けていくことぐらいです。あまり期待しすぎずに、続けられる範囲で作り続けていく、ということに尽きます。