そこには、火山の存在がある。

アイスランドと聞くと氷に覆われた大地を想像するが、実は地殻プレートの境界に位置するゆえ火山活動が活発で、「火と氷の国(the land of fire and ice)」と呼ばれている。

今この原稿を書いている2024年3月末時点でも、昨年12月以降活発化したレイキャネス半島での火山活動が続いていて、4回の噴火が起こっている。今回のように溶岩が流れる大規模な火山活動は、10年に一度ほど発生してきた。

火山のエネルギーは恐ろしさもあるが、重要な資源でもある。トマト温室の下のほうに走っていた温水パイプは、地熱で暖められた温水を環流させて室内を暖めている。言い換えると、火山による地熱を間接的に利用して農業が行われているのだ。

氷の大地の食を支える地熱

アイスランドの食を知るにつれ、地熱がトマト栽培にも幅広く活用されていることを知った。

たとえば、パン。Rúgbrauð(ルグブロイス)という茶色いライ麦パンは、黒糖蒸しパンのように甘くてしっとりしていて、朝食や魚料理のお供にしばしば食べられるのだが、その中でパン窯を使わず作られるもののことをHverabrauð(カヴェラブロイス)と呼ぶ。温泉の湧き出る熱い地面に生地を入れた容器ごと埋め、蒸すことで作られるのだ。

Fontana Geothermal Bakeryにて。ホールケーキのようなHverabrauð(カヴェラブロイス)はスライスして食べる (写真:筆者撮影)

「このパンが作られ始めたのは18世紀だが、当時アイスランドにパン窯は1つもなかった。日照が短く夏が短いため穀物が育たず、木が育たないから窯を暖める薪も潤沢にない。わずかな穀物は粥にして食べていた」というのは、アイスランドの食文化研究者Nanna Rögnvaldardóttir氏の著書 『Icelandic Food and Cookery』 によるもの。

たしかに、ドライブの間も高い木は見かけず、ひたすらはげた大地が続いていたし、60代の方々と話すと「子どもの頃は食パンなんてなかった」という。今や世界有数の豊かな国になったこの国で、ほんの最近までパンも容易に焼けなかったというのも驚くが、大地の熱を使ってパンを焼くという発想にも舌を巻く。

Laugarvatn Fontana Geothermal Bakeryにて。石の乗った小山は、中でパンが蒸されている印(写真:筆者撮影)