2024年現在、防衛省が急ピッチで取得を進める長射程ミサイルですが、現状アメリカ製と国産の2本立てになる模様です。しかし、複数あると費用対効果が悪くなることも。一方、ヨーロッパでは国をまたいで共同開発を進めているようです。

日本だけじゃない 欧州も新型長射程ミサイルを開発中

 2024年2月、防衛省は神奈川県の横須賀にある施設において、アメリカ軍が長射程巡航ミサイル「トマホーク」の運用に関する教育訓練を海上自衛隊の隊員に対して3月末から開始すると発表しました。

 これは、2022年12月に決定された「安全保障関連3文書」に基づき、海上自衛隊のイージス艦でトマホークの運用を行うと決まったことを受け、実施されるものです。

 これまで、自衛隊ではこうした長射程のミサイルを運用してきませんでした。しかし、北朝鮮や中国の領域内に存在するミサイル発射装置や、護衛艦艇などにより厳重に守られた重要目標といった、今後想定される脅威を踏まえると、相手から距離を保った状態で安全に攻撃することができる長射程ミサイルが必要と判断したのです。

 今後、自衛隊ではトマホークのような海外製のミサイルだけではなく、国産の長射程ミサイルも配備が進められることになっています。

 たとえば、陸上自衛隊で運用されている「12式地対艦誘導弾」の射程を大幅に向上させ、最終的には1500km先の艦艇や地上目標を攻撃することを目指す「12式地対艦誘導弾能力向上型」なども開発が始まっています。今後はこれをさらに発展させ、陸上自衛隊だけではなく、海上自衛隊の艦艇や航空自衛隊の戦闘機などにも搭載する予定です。

 じつは、こうした既存のミサイルに代わり長射程の新型ミサイルを開発する動きは、日本だけではなくヨーロッパにおいても進められています。

英仏共同開発の新型ミサイルでアレコレ置き換え

 このような新型ミサイルの一種といえるのが、イギリスとフランスが共同で開発する「将来巡航/対艦兵器(FC/ASW)」です。これは、2017年にイギリスとフランスの両政府が共同開発をスタートしたもので、その目的はイギリスとフランスの海軍および空軍が運用している対地ミサイルや対艦ミサイルを置き換えることにあります。

 更新の対象となっているのは、空対地巡航ミサイルの「ストームシャドウ」(イギリス)と「SCALP」(フランス)、対艦ミサイルの「ハープーン」(イギリス)と「エグゾゼ」(フランス)です。これを実現するため、FC/ASWでは空対地巡航ミサイルと対艦ミサイルを統合した次世代の長射程ミサイルを開発することとされています。

 現在のところ、FC/ASWに関しては2028年に艦対艦ミサイルバージョンの運用が開始される予定で、一方の空対地ミサイルバージョンは2030年代の運用開始が見込まれています。イギリス海軍では、今後就役が開始される新型の26型フリゲートに、このFC/ASWの対艦ミサイルバージョンをまずは装備させることを計画しています。

 しかし、じつはイギリス海軍ではすでに先述した対艦ミサイルのハープーンが2023年に退役しています。となると、FC/ASWの配備が開始されるまでイギリス海軍では対艦ミサイルを運用しないということなのでしょうか。じつはそうではありません。

英軍フリゲートに暫定で新型ミサイルが

 イギリス海軍では、2024年現在、海上戦力の中核として運用されている23型フリゲートと45型駆逐艦において、「ハープーン」が装備されていた場所に新しい対艦ミサイルを装備しようとしています。それが「NSM」です。

 NSMは、ノルウェーのコングスベルグ社が開発した艦対艦ミサイルで、優れたステルス性で敵の警戒を潜り抜けつつ、搭載するセンサーで探知した目標を、搭載するデータベースと照合しながら確認し、約180km先の敵を正確に攻撃することができます。

 イギリス政府は、2022年11月にコングスベルグ社とNSMの購入に関する契約を結び、FC/ASWが登場するまでのいわば暫定策として、これを順次23型フリゲートと45型駆逐艦に装備させるとしています。2023年には、23型フリゲートの11番艦である「サマセット」にNSMがはじめて装備されました。

 日本では、冒頭に記した12式地対艦誘導弾の能力向上型について、順次、射程を延長させていくとしていますが、イギリスでは新型ミサイルが登場するまでのつなぎとして、新たなミサイルを導入したわけです。

 世界的に、長距離対艦ミサイルと巡航ミサイルの統合はブームとなりつつあります。ひょっとしたら近い将来、日本もさらに進んで「トマホーク」と12式地対艦誘導弾の能力向上型自体が統合されるかもしれません。