航空機の運航のコントロールに欠かせない空港施設が「管制塔」です。しかし、高い塔の代わりになる、移動式の施設内で管制業務を行う取り組みが世界中で進んでいます。そのメリットはなんなのでしょうか。

「司令塔」ゆえ狙われやすい!

 空港において航空機の運航を見守り、離着陸のコントロールを行う要の施設が「管制塔」です。しかし、航空自衛隊では2003年に「移動管制隊」を編成し、車両タイプの移動式管制塔と、移動式ラプコン(進入管制用レーダー)、それに移動式タカンと呼ばれる無線標識装置を装備しています。どのような理由からなのでしょうか。

 基地や空港で一番高い管制塔は、文字通り“司令塔”といえ、目立つため攻撃目標にもなりやすく、有事でダメージを受けた際は滑走路と同じように一刻も早い復旧が望まれます。

 移動式管制塔については、同じ目的や臨時に設置した基地への展開に向けて、たとえばスウェーデンのメーカー、サーブも開発しています。

 航空自衛隊が持つ移動式管制塔J/TSC-701は、トレーラータイプの“走る管制塔”です。トレーラーには小屋のような管制シェルターがあり、これを載せた床(架台)が最大8mまで持ち上がり、管制シェルターの視界が確保されます。しかもこの移動式管制塔はC-130H輸送機やCH-47Jヘリコプターにより吊り下げて空輸できるということです。

 一方、サーブが「r-TWR Deployable」と名付けた、「即応展開デジタルタワー」は、伸ばしたマストの頂部に360度の視界を確保したテレビカメラやセンサーを用いているのが特徴です。つまり、人が直接的に航空機の発着を確認するのではなく、カメラを介して把握するものです。

「移動式管制塔」のメリットは?

 2024年2月に開催されたシンガポール航空ショーで、「r-TWR Deployable」のイメージビデオが流されていましたが、トレーラーやC-130輸送機で運ばれた後は、3人による30分間の作業で展開でき、マストは最大25m延びるということです。

 両者の移動式管制塔を比べると、空自の移動式管制塔は直接的に航空機を見ることができるだけに、発着機の詳細な動きを把握できそうです。これに対して、r-TWRは展開が簡便に見受けられます。

 サーブがこうした機材を開発するのは、有事の際、公道からでも戦闘機を発着させるのに合わせたためと思われます。公道の脇には戦闘機を隠す森などもあるために、できる限りマストを高くして視界を確保して管制塔としての役目を果たし、なおかつ、マストという小屋型のシェルターより高く上げられるうえに、細く敵に見つかりにくい形を採用したと考えられます。
 ちなみに、航空自衛隊でも実際に移動式ラプコンの方を2011年3月の東日本大震災後、宮城県の松島基地で運用した経験があります。

 r-TWRについては、シンガポール航空ショー会場で出展していたサーブへ、2024年1月に発生した能登半島地震の復旧支援を例に挙げ民間空港でもr-TWR Deployableを使うことができるか尋ねたところ、「できる」とのことでした。

 能登半島地震は、民間の能登空港の滑走路が損害したものの、同じ石川県内の空自小松基地が救難物資輸送の集積・中継地となりました。能登半島地震と異なり、もし、被災地の近くに被害の軽い空港や基地がなければ救援も滞ると思われます。こうした際の備えに、移動式管制塔は選択肢の一つと言えるでしょう。