山形県で、ある裁判が進行中だ。来月結審すると見込まれる裁判。証言台に立つのは元消防士だ。
犯行当時は現役の消防士だった30代の男。上下グレーのスウェットを着た男は、力なく山形地方裁判所の法廷に立っていた。
「間違いありません」 起訴内容を問われると、そうはっきり答えた。
被害者は20代の女性。
女性は、予想もしていなかった出来事に恐怖を感じた。背後から近づく足音。屈強な男に突然抱きつかれたのだ。
元消防士の男は去年12月、山形市の路上で、20代女性に背後から抱きつくなどしたとして、不同意わいせつ未遂の罪に問われている。
ただ抱きついただけではない。その行動が、検察によって明かされた。
男は犯行の日、山形市内の体育館でトレーニングに汗を流す。高揚した気持ちをのやり場がなかったのか、帰りのハンドルを握った時には女性に対する欲求を抑えられなくなっていた。
裁判で明らかになった動きはこうだ。
スーパーの駐車場に車を入れる。男は横切る女性を目で追っていた。歩く女性を物色しはじめたのだ。
そして一人の女性が目に飛び込んでくる。被害者の20代女性。男の好みだった。
女性は1人で歩いている。しかも人通りのない道に向かっていた。「他人に見られず、できる」男はわいせつな行為について考えた。
男は車から降りた。そして小走りで女性を追ったという。
女性が歩く道は、何も見えなかった。12月の風は冷たい。スマホのライトをつける。足元が明るくなった。女性は明かりをつけたまま歩いていた。
その時、後ろから聞こえてきたのは小走りの足音だった。
女性は振り返ろうとする。しかし、できなかった。振り返るより早く、ものすごい力で両側から上半身を押さえつけられたのだ。
女性は振りほどこうと、体をゆする。そして大声を出した。
声を聞いた男はたじろぐ。そして、その場から逃げ出した。
警察は防犯カメラなどの捜査から男を割り出し、逮捕に踏み切った。
男の心の闇はどこから生まれたのか。
男は結婚していて、妻と息子がいる。
しかし犯行のおよそ2年前、息子が生まれてから妻との関係が悪くなった。そして日頃から、性的な欲求不満を感じるようになったという。
だがこの男の言葉を、家族は、関係者はどう聞いただろう。
弁護側は事実関係に争う姿勢はなく「本人は深く反省している。被害者にもしっかりと償いたい」とした。
しかし暗闇で、力いっぱい抱きつかれた女性の恐怖はどれほどだったか。
女性は外出するのが怖くなり、アルバイトをやめざるを得なかったことも明かされた。
元消防士の男の裁判は、来月も行われる。