■家計はスタグフレーション、企業収益は高水準

みずほリサーチ&テクノロジーズ 酒井才介主席エコノミスト
「物価高の中での低成長、物価高の中での個人消費の低迷という状況ですので、少なくとも家計目線で言えばスタグフレーション(景気が停滞しているのに物価上昇)に近い状況になっています」

しかし、不況に突入しているかという観点でいうと、

「企業利益は過去最高といっても良いほど高水準で推移していて、株価も好調です。インバウンド需要も回復してきていることから、日本経済全体でみれば不況に入ったとまでは言えないと思います」

今後、個人消費も改善され景気は改善していくのでしょうか。

■物価上昇率は3%前後が続き、賃上げ分相殺か

「景気は緩やかに改善すると見ています。個人消費が弱い背景には実質賃金のマイナスが続いているということがありますが、今年の春闘で歴史的にみても大幅な賃上げが実現します。2024年の10-12月期ぐらいには実質賃金の前年比がプラスになると見込まれます。家計からみた所得環境が改善されるということなので、個人消費も緩やかではありますが回復傾向に向かう可能性が高いと見ています」

なぜ回復に時間がかかるのでしょうか。

「物価上昇率がなかなか下がらない。当面は消費者物価指数(生鮮食品を除く)でいうと、前年比で3%前後の高い伸びが続くというふうにみています」

現状の物価上昇率をみてみると、過去12カ月で2.0%〜3.0%の高水準で推移していることがわかります。酒井氏の見立てではこの状態がこれからもしばらく続くようです。

総務省の消費者物価指数(CPI)から作成
「賃上げもあるので、企業から見れば人件費が上がり、人件費を価格に転嫁する動きが広がります。それから運送業の人手不足が深刻化していく中で物流費が高騰しています。円安が進行し原油価格も上がっていますので、食料品を中心とした幅広い品目で物価上昇圧力が高まってきています」

さらには政府の政策も影響していると言います。

「再生エネルギー賦課金の引き上げ、これにより電気代の上昇が見込まれます。6月以降は政府の電気・ガス代の価格抑制策が終わるということになっていますので、これまでより消費者物価の上昇率は下がりにくくなることが予想されます」
「2024年は高い賃上げ率になりましたが、物価上昇率が高い状態が続くことによって賃上げの効果のかなりの部分が物価上昇率の高止まりで相殺されてしまうということが見込まれます」

ではこの物価と賃金の関係がどういう状態になることが経済にとって望ましいのでしょうか。