トヨタ「クラウン・スポーツ」に追加されたPHEVを公道で試乗しました。内外装のスポーティな仕立ても注目のモデルですが、果たしてどんな走りを見せてくれたのでしょうか?

あるときはEVのように、またあるときはHEVのように

 トヨタ「クラウン・スポーツ」のPHEV(プラグインハイブリッド車)仕様である「RS」グレードに試乗しました。

 先進国を中心とする新車マーケットでは、EV(電気自動車)の成長が踊り場に差しかかり、ここへきてPHEVとHEV(ハイブリッド車)の販売が伸びています。

 EVは「環境にやさしいクルマ」というイメージを持つ人が多いのではないでしょうか? 確かにEVは走行中、二酸化炭素を一切排出しません。しかし、航続距離の短さや充電インフラが足りないといった弱点や課題が存在しています。革新的ではあるものの、所有できる人を選ぶクルマといってもいいでしょう。

 それに対して、PHEVは日常的な移動距離(100km程度)であれば、外部から充電したバッテリーとモーターだけでEVのように走ることができます。それでいて、燃料でエンジンを動かして発電すれば、充電しなくても長距離を走れるという高い利便性も兼ね備えています。

 あるときはEVのように、そして、またあるときはHEVのようにと、それぞれの特性をミックスした「我慢を強いられない環境にやさしいクルマ」。先進国を中心に販売が伸びているのは、多くの人がPHEVをそのようにとらえ始めたからでしょう。

 そんな追い風が吹くなか登場したのが、今回フォーカスする「クラウン・スポーツ」のPHEV。このモデルで興味深いのは、トヨタが単にPHEVを「充電できるHEV」と位置づけていないことです。

 2012年、トヨタは同社初のPHEV「プリウスPHV」を世に送り出しますが、そのセールスを想像以上に低調でした。なぜなら、ベースとなったHEVの出来がよすぎて、あえてプラグインを選ぶ合理的な理由をユーザーが見つけられなかったためです。

 そこでトヨタは、長い時間を費やし考えました。「PHEVを選んでもらうには、どうすればいいか?」と。そうして導き出された答えが、「普通のHEVとは違う、ユーザーが実感できるプラスαの価値をPHEVに盛り込むこと」だったといいます。

 例えば、現行の「プリウスPHEV」は、エンジンの静粛性や乗り心地、さらに加速の力強さなどがHEVの「プリウス」より格上です。それぞれの水準をHEVよりも引き上げ、実質的にひとクラス上のクルマに仕上げています。

 一方、「RAV4」や「ハリアー」のPHEVには、圧倒的な加速性能をプラスしています。HEVよりも大きく力強いモーターを組み合わせ、そこへ大容量バッテリーを活かした大電流を流すことで圧倒的な加速性能を実現したのです。

 果たして、今回の主役である「クラウン・スポーツRS」は、「RAV4」や「ハリアー」のPHEVと同じ路線を採りました。「エコだけど高性能」というキャラクターでHEVとの差別化を図ったのです。

「RS」というグレード名を冠したスポーツグレード

「クラウン・スポーツRS」のフロントモーターは、HEVの約1.5倍に相当する高出力タイプのため、加速の強さは圧倒的です。

トヨタ「クラウン・スポーツ」のPHEV仕様「RS」グレードは、圧倒的な加速を味わえるスポーティモデル

 おまけに、システム出力306psを誇るその加速フィールは通常のHEVとはケタ違い。シームレスな伸び感も含め、まるでジェット機が離陸するときのような加速を見せます。

 アクセルペダルを踏み込んだ際の、瞬時にグッと反応してグイグイ速度が増していく感覚は、ガソリン車や普通のHEVでは味わえないもの。こうした走り味を「特権」としてプラスするのが、トヨタが考えた「クラウン・スポーツ」のPHEV戦略なのです。

 その上で、「クラウン・スポーツ」のPHEVは「RS」というグレード名を冠した、スポーツグレードとして位置づけています。

 足元を見ると、ホイールをマットブラック仕上げにしただけでなく、ブレーキのローターを大径化するとともに、キャリパーを赤くすることで見た目でもスポーティさを演出。さらに、対向6ピストン式の超大型フロントキャリパーが、ただならぬ雰囲気を醸し出しています。

 キャビンに目を移すと、インパネまでレッドのトリムを組み合わせたカラーコーディネートが大胆。なんとシートベルトまでレッドになっています。

 フロントシートもHEV仕様とは異なり、「GRカローラ」などに組み合わされるスポーティな仕様。また、ステアリングやシフトノブには、ディンプル加工が施された専用のトリムをあしらっています。

 その上で、パドルシフトも追加された「クラウン・スポーツ」のPHEVは、「RS」を名乗るだけあってとことんスポーティな仕立てとなっています。

 しかも「クラウン・スポーツRS」は、内外装の仕立てだけが特別なのではありません。HEVよりもフロア補強をプラスして車体剛性を上げ、これまた専用装備となる電子制御可変ダンパーを標準搭載するなど、走りの味つけも変更しています。

 電子制御可変ダンパーのメリットは、通常時は快適な乗り心地としながら、キビキビ走りたいときにはサスペンションを硬くし、よりシャープな乗り味へとキャラ変させることができる点。

 実際、「クラウン・スポーツRS」で走行モードを「スポーツ」にすると、可変ダンパーのないHEVよりサスペンションが硬くなり、よりストイックに走りを堪能できます。

 もちろん、スポーティに仕上げたモデルだからといって、エコ性能が犠牲になっていることはありません。

 例えば、「クラウン・スポーツRS」は満充電したバッテリーだけで、エンジンを始動させることなく約90kmも走行可能。日常は燃料を使わず移動できるというPHEVの美点もしっかり維持しているのです。

 そんな「クラウン・スポーツRS」は、筆者(工藤貴宏)が実際に試してみたところ、日本の最高速度である120km/hでもエンジンは始動せず、モーターだけでの走行が可能でした。

 なおスペック上は、(エンジンも利用する)ハイブリッド時の燃費は20.3km/Lで、バッテリー満充電&ガソリン満タンでスタートした場合の無充電&無給油での航続距離は約1200kmとなっています。

 ちなみに「クラウン・スポーツRS」は、トヨタのPHEVとしては久しぶりに急速充電に対応しているのもトピックのひとつといえるでしょう。

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 PHEVはエコなクルマですが、「クラウン・スポーツRS」にはそんな概念など微塵もなく、むしろ「PHEVだからあえてスポーツに振った」かのようなモデルに仕上がっています。

「EVまでは踏み切れないけれど、モーター走行を楽しみたい」という人も、「圧倒的な加速を味わえる最もスポーティな仕様が欲しい」という人も、どちらも満足させてくれるのが「クラウン・スポーツRS」なのです。