2023年にレクサス初のBEV専用モデルとして誕生した「RZ」に、新たなラインナップが加わりました。「RZ450e」からリアモーターを外した前輪駆動版の「RZ300e」は、どんな魅力を備えたモデルなのでしょう? 公道でチェックしてみました。

100馬力以上パワーダウンした「RZ300e」が魅力的な理由とは

「商品力は十分納得できるレベル。これ以上は必要ないんじゃない?」……レクサス「RZ」のラインナップに新たに加わった「RZ300e」をドライブして、素直にそう感じました。

「RZ」は2023年3月に発売された、レクサスブランド初のBEV(電気自動車)専用モデル。当初は「RZ450e」だけの展開でしたが、先頃、新たな仕様「RZ300e」がラインナップに加わりました。

「RZ450e」と「RZ300e」は何が違うのでしょう? それはモーターの数と最高出力です。

 前輪と後輪それぞれにモーターを組み込み、トータル最大出力312.9ps(フロントモーター203.9ps+リアモーター109ps)を発生する「RZ450e」対して、フロントモーターだけとなる「RZ300e」は、最大出力が203.9psとなっています。

 そんなパワートレインの違いが影響するのは、なんといっても動力性能。出力が下がったことで、「RZ300e」の加速は「RZ450e」に比べて遅くなっています。

 となると気になるのは、両モデルにはどのくらいの差があるのか? ということでしょう。しかし……です。停止状態からアクセルを踏み込んでみての印象は、「『RZ300e』でも十分速い。これ以上はいらないのでは?」というものでした。

 約2トンの車両重量に対し、203.9psという出力ははっきりいって控えめです。そのため「さほど速くないんじゃないの?」と予測していたのですが、実際の「RZ300e」の加速は十分以上で、正直なところ「これほどの加速力が必要なシーンはほぼないだろう」とすら思えたほどです。

 エンジンとは異なり、瞬時に最大トルク(266Nm)を発生するモーターは立ち上がり加速が鋭く、十分すぎる実力を発揮してくれます。

 BEVの場合、最高出力が意味するのはエンジン車とは全く感覚が異なるのだと改めて思い知らされたのでした。

 もちろん、「RZ450e」の加速はさらに鋭いので、速さを求めるなら断然「RZ450e」です。でも、そこまでの速さを求めないのであれば、「RZ300e」でも必要にして十分。間違っても「遅い」というレベルではなく、「それなりに速い」と表現できる走りです。

●「RZ300e」は最長530kmへと伸びた航続距離も魅力的

 その上で「RZ300e」は、このモデルならではの美点も備えています。それは“身のこなしの軽さ”です。

 リアモーターがない「RZ300e」は、「RZ450e」に対して100kgほど軽く仕上がっています。なので、走行中の挙動が軽快。これは「RZ300e」ならではの魅力といえます。

 さらに「RZ300e」は、「RZ450e」よりも航続距離が長いという美点もあります。EVといえば、多くの人が気になるのが航続距離でしょう。その点、「RZ300e」の71.4kWhというバッテリー容量は「RZ450e」と同じです。

 そのため、同じ20インチタイヤ仕様で比べると、航続距離は「RZ450e」の494kmに対し、「RZ300e」は530kmへと伸びているのです(ちなみに18インチタイヤ仕様は「RZ450e」が534kmで「RZ300e」は599km)。この差は、「RZ300e」を積極的に選びたくなる理由のひとつとなるかもしれません。

「RZ300e」では味わえない「RZ450e」のアドバンテージとは

 では「RZ450e」の存在は必要ないのか? といわれれば、さにあらず。「RZ450e」は鋭い加速に加えて、コーナリング中の挙動がシャープという独自の美点があります。

軽さによる軽快な走りや長い航続距離など、上級モデルにはない独自の魅力を獲得したレクサス「RZ」のエントリー仕様「RZ300e」

 リアモーターを積極的に活用することで、“理想的”といわれる後輪駆動車のコーナリング姿勢に近づく「RZ450e」は、深く曲がり込んでいくようなコーナーでも進路が外側にふくらむことなく、グイグイ曲がってくれるのです。

 この感覚は、リアモーターのない「RZ300e」では味わえない「RZ450e」ならではのアドバンテージといえるでしょう。

 そんなオン・ザ・レール感覚の楽しさを知るドライバーなら、「RZ450e」を選ぶ価値を実感できるはずです。「RZ450e」って、鋭い加速を楽しめるだけでなく、“コーナリングマシン”でもあるんですね!

●「RZ300e」はコストパフォーマンスも良好

 ちなみに装備レベルは、「RZ300e」と「RZ450e」ともに「“バージョンL”」仕様のため、基本的に共通です。

“ウルトラスエード(スエード調の合成皮革)”を各部にあしらったインテリアやシートヒーターはもちろんのこと、運転席と助手席のベンチレーション機能などフル装備状態となっています。

 違いがあるといえば、標準装着されるタイヤ&ホイールが、「RZ450e」の20インチに対し、「RZ300e」では18インチとなる程度。ただし、20インチタイヤはオプションで選べるので、実質的な差はないといえそうです。

 ちなみに「RZ300e」の価格(消費税込)は、「RZ450e」より60万円安い820万円(タイヤのことを考えれば実質的には約50万円の差)。「RZ300e」のコストパフォーマンスは良好といえるでしょう。

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 では、結論といきましょう。

 モーターをシングル化した「RZ300e」が向いているのは、「航続距離は長い方がいい」、「過剰なまでの加速は不要」、「4WDは必要ない」、「リーズナブルに購入したい」という人。

 一方、「RZ450e」を選ぶべき人は、「刺激的な加速を味わいたい」、「積極的に曲がるハンドリングを楽しみたい」、「ハイパフォーマンスを好む」、「せっかくなら上位モデルを楽しみたい」といった人でしょう。

 十分な性能と商品性を備えた上で、シリーズに新たな選択肢をプラスした「RZ300e」は、レクサス「RZ」の魅力と実力をより多くの人へと伝えることでしょう。