BMWの2人乗りのコンパクトカー「イセッタ」がイギリスのオークションに出品されています。どんな個体なのでしょうか。

イセッタの登場は時代が早すぎた!?

「イセッタ」は2人乗りの超小型車で、BMWの旧型車として知られています。しかしイセッタは厳密にいえばBMWのクルマではありません。

 1953年にイタリアの企業「イソ」が発表したクルマがオリジナルのイセッタです。

 卵形のボディやアイコニックな前開きのドア、前輪に比べて狭い幅の後輪といったスタイルはイソによるデザイン。エンジンは236ccの2ストロークエンジン(9.5ps)を搭載していました。

 BMWは1916年に航空機用エンジンメーカーとして創業、第2次世界対戦前はこの航空機・戦闘機用のエンジンのほか、2輪、4輪を製造していましたが、終戦後は連合国に3年間の操業停止を命じられてしまいます。

 1950年代にBMWは4輪の生産を再開しましたが、超高級車や高性能スポーツカーを専門的に生産していました。戦前の風習を受け継いでの高級車生産でしたが、戦後になると市場は一変し、安価な大衆車が求められるようになりました。

 大衆車をラインアップしていないBMWは、そこでイセッタに目をつけます。そしてイソ社からライセンス生産の許可を得て生産したのが「イセッタ250」です。

 イセッタ250は、オリジナルのコンセプトは踏襲したものの、BMWで再設計。独自のヘッドライトやサスペンションチューニングも行いました。

 搭載するエンジンも見直しました。当時のBMWのバイク「R25」に使用していた247cc単気筒エンジン(12ps)をイセッタに採用。「イセッタ250」の車名の由来となっています。

 1955年末頃にはエンジンの排気量を298cc(13ps)に拡大した「イセッタ300」に進化。窓も開閉式を新採用しました。同車がオークションに登場したのです。

極上の1957年式イセッタの気になる落札価格は?

 出品された個体は1957年製造のもの。

 シャンパンレッドとフェザーホワイトの2トーンカラーで、4速マニュアルのギアを採用しています。

英国オークションに登場した1957年式BMW「イセッタ」。前ドアから乗り降りする2シーター・コンパクトカーだ

 走行距離は3万2622マイル(5万2500km)と少なめ(出品者によれば、保証はできかねるとのこと)。外観の状態は良く、シャンパンレッドとフェザーホワイトの2トーンカラーが綺麗に発色しています。

 ホイールも錆がなく良好な状態。中央部のBMWのロゴマークもはっきりと見て取れます。

 外観同様、車内も綺麗な状態が保たれています。錆が見当たらないことはもちろん、レザーシートは多少のシワがあるのみでひび割れはないようです。

 屋根は幌のオープン式。暖かい日などに屋根を開ければ気持ち良いドライブが楽しめそうです。

 ちなみに状態が良い理由は、再整備をしたから。ボディの再塗装はもちろん、エンジンやトランスミッションにも粉体塗装を施したとのこと。

 そのため、車体の内側にあるエンジンも綺麗な状態が保たれています。エンジンオイルの交換も定期的に実施され、最新の交換は2023年4月に行ったようです。

 なお、無垢の金属パーツは経年による色のくすみが見られます。しかし機能性に影響はないもので、その気になれば市販のポリッシュなどで磨いて輝きを復活させられるでしょう。 

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 今回のイセッタ300は、4万7000ドルで落札されました。日本円に換算すると、約729万4000円となります。

 1950年代の小さな小型車にこのプライスがつけられるということは相当価値が高いことを意味しているといえます。

 2人乗りで小さいイセッタは、やがて4人乗りになるなどボディが拡大し、1960年初頭には生産が終了したようです。

 しかしBMWではありませんが、イセッタをモチーフとした小型EVが現在欧州で発売されています。小型車はEVとの相性が良く、次世代のパーソナルモビリティとして注目を浴びています。