統合失調症の患者から、この世界はどう見えているのだろう?体験した人でないとわからない感覚を、発症した本人が描くコミックエッセイ「今日もテレビは私の噂話ばかりだし、空には不気味な赤い星が浮かんでる 〜統合失調症の私から世界はこう見えた〜」が2023年に書籍として発売された。

そのなかの印象的なエピソードの一つに、スマホの充電器を差したときの「ヴ」というバイブ音と会話をしていたという体験が出てくる。著者のHimacoさんに、そのときの感覚を振り返ってもらった。

※症状には個人差があります。漫画はあくまでHimacoさんの体験を元に描かれたものです。

■充電音がメッセージに思える
「思い出しますと、正確には『充電音がメッセージに思える』かもしれません」とHimacoさん。「言葉にするのは難しいですが、充電音が電波のように私の頭に飛んできて、メッセージだと思い込むのです」

そのメッセージは、「今すぐ外に出て!人が助けに来てくれるよ!」だったり、「Himacoさん私を助けて!」だったり。しかし、急いで外に行って歩き回っても何もない…。一方で家族からは、昼夜問わず不意にいなくなってしまうことを大変心配されていたとのこと。

何か具体的な声なのだろうか?と聞いてみたところ、そうではなかったという。「メッセージのイメージでした。充電音に対し、反射的に『メッセージが頭に浮かぶ』のです。最初は普通に充電しようとするのですが、メッセージが飛んでくるので、その後は何度もそれを聞くために、充電器を差したり抜いたりしていました」

充電音のほかにも、「車が通るたび『(車が)私にメッセージを送ってきている』と感じたのを覚えています。不思議な感覚ですが、日常の些細な出来事に敏感に反応し、意味付けをして、妄想は広がっていきました」

Himacoさんの場合、発症時は頭が鋭敏になりすぎて、取るに足らない小さな情報を脳が勝手に拾っては意味付けしていた。そのため、電車で隣に座った人の貧乏ゆすりを「何かの暗号か?」と脳が解釈したり、テレビでは「いつも自分のことが話題になっている!」と錯覚したりしたそう。

これらの行動は周囲からは奇妙に感じられるかもしれないが、本人の頭の中では整合性が取れている。ほんの一例、個人的な体験ではあるが、統合失調症患者が見る世界を想像するヒントになるのではないか。

取材・文=折笠隆