あなただったらどちらを選ぶだろうか?このままあと50年生きるのと、この先の幸せを全部つめこんで50歳まで生きるのと――。果たしてどちらが幸せなのか?そして、この話の主人公が手にした選択は…?


世間では、ある都市伝説の存在がまことしやかにささやかれていた。深夜3時33分ちょうどにテレビをつけると、黒服の男が現れて、こう聞いてくる。「このまま50年生きるのと、この先の幸せを全部つめこんで50歳まで生きるのと、どちらを選びますか」と。テレビのワイドショーでは、そんなくだらない都市伝説を取り上げて特集を組み、街頭インタビューまで行われていた。

そんなワイドショーをすさんだ目で見つめる女性がいた。髪も服もヨレヨレで生気のない表情を浮かべているのは夏美・36歳。彼女は母親と2人暮らしなのだが、母は夏美のことを「陽子さん」と呼ぶ。「いじわるしないでぇ。陽子さん」と…。深夜に徘徊を繰り返す認知症の母を連れ帰り、布団に寝かしつけながら「…だから私は夏美だってば。お母さん」とつぶやく小さな悲鳴は、誰にも届かない。

そんな彼女に都市伝説と思われていた出来事が起こったら…?果たして、夏美は“どちら”を選んだのか…?本作の著者は、「貧女ハウスへようこそ」(小学館)や、「実録怪談 本当にあった怪奇村/新犬鳴トンネル」(竹書房)などの代表作を持つ三ノ輪ブン子(@minowabunko)さんだ。ホラー作品をおもに描いている漫画家・三ノ輪さんに本作について話を伺ってみた。

――この都市伝説は三ノ輪さんの創作でしょうか?思いついたきっかけは?

細かいところは創作ですが、真夜中のテレビに急に何か映る、というのは短編ホラーでよくあるパターンかなと思います。描いたころの記憶がおぼろげなのですが、これを描いたときはいろいろなトラブルを抱えていて、将来への不安が大きかった時期で…。目の前にあるこれから乗り越えなくてはいけない何十年という歳月の重みに、途方に暮れていました。それでこんな問いが生まれたのかもしれません。

――ラスト1ページの主人公の表情と、その後に彼女の耳に届いた「夏美」という声が印象的でした!

この作品は「作者からこのメッセージを伝えたい」という作品ではなくて、読んだ方がなんとなく自分にとっての幸せってなんだろうな、と各々思いをはせてくれたら…と思って描いた作品です。なので、主人公の表情も「夏美」というセリフも、読む人の数と同じだけ感想があればいいな、と思っています。

「最終ページの顔の晴れやかさが印象に残りました」「最後の憑きものが落ちたような顔」「最後のページ、娘の名前間違えてない」「泣けました」とコメント欄にはさまざまな感想が寄せられた。三ノ輪さんはそれらのコメントに対して、「短いページの中で伝わるか心配だった本作品の意図が伝わっていてうれしいです」「最後のコマの“夏美”というセリフに気づいていただき、ありがとうございます」「重いテーマなだけに読後感が悪いのでは?と気になっていたので感想をいただけてよかったです」などと返している。

三ノ輪さん現在、電子雑誌「comicタント」(ぶんか社)にて、都市伝説系漫画「ただのうわさです」(原案:飯倉義之)を連載中!三ノ輪さんの都市伝説系ホラーの世界観が味わえる作品なので、こちらもぜひ読んでみて!


取材協力:三ノ輪ブン子(@minowabunko)