高いグリップが必要なレース用はツルツル! それならなぜタイヤには「溝」が存在するのか?

この記事をまとめると

■タイヤの溝の役割について解説

■耐ウエット性能を確保するために設けられている

■溝がないと雨天時にグリップ力が保てない

溝によって耐ウエット性能を確保

 乗り心地、耐摩耗性、騒音、雨天性能と総合性能が問われる一般的な乗用車用タイヤとコーナリング時のハイグリップ性、ステアリングの応答性などを重視したスポーツタイヤとでは、外観的にも見た目の違いは大きい。とくに目立つのが、路面と接地するトレッド面と溝面積の比率である。

 よく知られるように、ドライ路面でもっとも高いグリップ力を発揮するトレッド面デザインは、溝なしのトレッド面、つまりレーシングタイヤで採用されるスリックタイヤである。では、市販車のタイヤでスリックパターンがないのはなぜか?

 すでにご承知の方も多いと思うが、耐ウエット性能を確保しなければならないからである。

 トレッド面に刻まれた溝の役割は、雨天時にトレッド面と路面の間にある水を排水するためだ。溝がないとトレッド面と路面の間に水膜が生じ、タイヤのグリップ力が失われてしまうからである。ドライ状態でスタートし、途中降雨によって路面に水膜ができると、各車ピットインしてスリックタイヤから溝のあるレインタイヤに交換するのはこのためである。

 ちなみに、トレッド面の溝とブロックの比率をシーランド比(海と陸の比率)といい、通常35対65ぐらいで設定されている。また、シーランド比は同じであっても、溝のデザインをどうするかで、排水効率は異なってくる。一般的に、回転方向に指定のあるV字パターンの溝を持つタイヤは、排水性能に優れていると言われている。

ドライグリップ力とウエットグリップ力は相反関係にある

 また、水膜の厚みによってもウエット性能は異なってくる。路面が水濡れただけの状態なら、ウエットグリップ力は溝による排水性能ではなく、トレッドコンパウンドのグリップ力に左右されることになる。世界耐久選手権(WEC)用にミシュランが開発した「ハイブリッド・インターミディエイト・タイヤ」は、排水用の溝がないにもかかわらず、多少のウエット路面なら走れてしまうという驚くべき性能を備えていた。

※写真はイメージ

 さて、スポーツタイヤの溝面積が少ないのは、いうまでもなくドライグリップ力を重視したためで、ウエット性能は雨天走行時に不満のないレベルを確保することに主眼が置かれている。積極的に、ウエット性能に強いと謳うハイグリップタイヤはほとんどなく、代わりにスポーツ性とウエットグリップ力(排水性能とウエットブレーキ性能)を高次元で両立させたプレミアムスポーツ(場合によってコンフォート性も重視)タイヤが商品化されている。

※写真はイメージ

 逆に、溝面積の多いタイヤは、ほとんどの場合ウエット性能に優れるが、エコタイヤなどは耐摩耗性に優れたコンパウンドや、騒音の発生が小さなトレッドブロック形状、あるいはタイヤの構造(ブロック剛性、サイドウォール剛性などケーシング剛性)によって性能に違いが生じてくるので、一概に見た目でタイヤの性能を判断することは難しい。

 一般論だが、接地面積が大きければグリップ力は高く、溝面積が大きければ耐ウエット性能に優れている、という判断でよく、ドライグリップ力とウエットグリップ力の関係は、相反関係にあると考えておこう。