海上自衛隊のSH60K哨戒ヘリコプター2機(乗員8人)が、夜間訓練中に墜落した事故は、現場となった伊豆諸島東方沖の太平洋が深さ5000メートルを超す深海域でもあり、行方不明者の捜索活動は難航している。事故は海中に潜む潜水艦を探知するという「対潜水艦戦」の最中に発生した。2機は空中衝突した可能性が高いとみられ、海自には一刻も早い原因の究明と再発防止策が求められている。

海上自衛隊の哨戒ヘリコプター「SH−60K」。事故への捜索活動はいまだ続く(海上自衛隊HPより)

 と同時に、四面環海の日本に生きる私たちは、この痛ましい事故を機に、改めて過酷な訓練が必要な厳しい安全保障環境に置かれている現実を認識しなければならない。

8年前の日米演習(キーンソード)で何が起きていたのか

 日本が置かれた厳しい安全保障環境――。それは8年近く前の2016年11月、日米共同統合演習「キーンソード」で露呈したと言ってもいい。キーンソードは米軍と自衛隊のすべての軍種が参加する日米最大規模の実働演習で、自衛隊にとっては、演習直前の16年3月に施行された安全保障関連法に基づいて行動する初めての訓練でもあった。

 訓練は朝鮮半島有事など日本への武力攻撃に至る恐れがある重要影響事態を想定した内容で、海上自衛隊のヘリ搭載護衛艦「ひゅうが」が、陸上自衛隊の西方普通科連隊(現在の水陸機動団)を乗せ、米領グアムなどで米海兵隊と上陸作戦を行ったほか、沖縄近海の浮原島沖では、米軍機のパイロットを救助する訓練も実施された。さらに、こうした日米の作戦即応力を高めるため、西太平洋には米海軍の原子力空母「ロナルド・レーガン」の機動部隊が展開していた。

 日米の緊密な連携に対して、まず動き出したのはロシアだった。太平洋艦隊の原子力潜水艦が北方領土方面から進出、太平洋を経由して鹿児島の奄美大島周辺海域まで到達するが、この間、原潜を探知した日米は、音波を発するアクティブソナーを使って、ロシア艦に対して探知していることを認識させ続けた。

 防衛省幹部は当時、「ロシアの原潜が日米演習を探りにきたのは、ソ連が崩壊して以来ではないか」と話していたが、その直後、今度は東シナ海から西太平洋に進出しようとする中国海軍の2隻のキロ級潜水艦が現れ、日米は共同で探知、追尾に追われることになる。この演習を境に、日本周辺海域では中露の潜水艦行動が活発化し、とりわけ中国海軍の潜水艦の行動は激しさを増していくことになるのである。