今月18日、『THE SECOND〜漫才トーナメント〜』(フジテレビ系)の最終決戦「グランプリファイナル」が放送され、ガクテンソクが悲願の優勝を果たした。昨年に引き続き、熾烈な戦いが繰り広げられた今大会。上位2組の魅力を中心に振り返りながら、改めて『THE SECOND』の特徴について考える。(ライター・鈴木旭)

「松本不在の大会」に不安の声も

昨年、盛況のうちに幕を閉じた『THE SECOND〜漫才トーナメント〜』の「グランプリファイナル」。その後、王者のギャロップが関西の劇場を中心に引っ張りだこになり、準優勝のマシンガンズもデジタル写真集を発売するなど華々しい活躍を見せた。

まさに中堅とベテランに夢を与える大会だ。それだけに第2回目となる今大会も、片時も目が離せない熱戦が繰り広げられた。

基本的なルールは昨年と変わらず、対戦するたびに勝敗が決定するトーナメント方式だ。ネタ時間は6分。一般審査員である会場の観客100人が「とても面白かった:3点」「面白かった:2点」「面白くなかった:1点」で採点し、より多くの得点を獲得した組が勝ち上がる。

今大会のファイナリストは、タモンズ、ハンジロウ、ななまがり、金属バット、ザ・パンチ、タイムマシーン3号、ガクテンソク、ラフ次元の8組。2年連続の最終決戦進出が金属バットだけであることからも、「結成16年以上のプロのみ」「即席ユニットでの出場は不可」との条件で開催される大会の厳しさがうかがえる。

また、昨年“アンバサダー”を務めたダウンタウン・松本人志に代わり、くりぃむしちゅー・有田哲平が“ハイパーゼネラルマネージャー”、博多華丸・大吉が“スペシャルサポーター”として参加したことでも話題となった。

「松本不在の大会」を不安視する声もあってのことか、番組が始まってすぐは有田の表情の硬さが見て取れた。しかし、徐々に緊張が解けたようでザ・パンチのパンチ浜崎の動きを真似て笑わせるなど、華丸・大吉の2人とともに会場を和ませていたのが印象深い。

そんな今大会で、決勝進出を果たしたのがガクテンソクとザ・パンチだ。第2回目となる『THE SECOND』はどんな大会だったのか。上位2組を中心に振り返ってみたい。

初代王者と通じるガクテンソク

見事第2代目王者となったのがガクテンソクだ。初戦でラフ次元との「大阪ダービー」を制し、続く準決勝で金属バットを退け、決勝戦でザ・パンチに勝利。結成19年目で見せた圧巻の漫才だった。

ひょうひょうとボケ倒すよじょうと、小気味よいツッコミと新鮮なリアクションが光る奥田修二。テンポのよい掛け合いの中で、確実に笑いを増幅させていくのが実に巧みだった。

どのネタもウケていたが、とくに印象に残ったのが1本目だ。昨年、大阪から東京郊外の国分寺に転居したよじょうを、東京進出ではなく「転勤」だと指摘する奥田。その後、よじょうが「別の物件を見に行ったがどれもよくなかった」と苦い顔をする。

事故物件と前置きしながら、その内実を「前に住んでた女の人が足つったらしい」と明かせば、奥田が「事故かそれ? 怪我やけどな」と返し、続けてよじょうが「床にね、サイコロ置くでしょ。ほんなら転がって行ったんや」と口にすれば、奥田が「サイコロが!?」と驚きつつ手でサイコロが転がるマイムを見せ「じゃあ足つるよ。しがみついて生きてんねやから」と補足し、見る者の頭に“どんな部屋か”の絵を描かせる。

次によじょうが「国分寺に大豪邸を建てたい」と理想のイメージを語り始め、リビングに敷く絨毯の候補を挙げて「トラ皮、ヒョウ皮、鳥皮」と指を折れば、奥田が「最後なんかヌルっとした1枚敷いてましたけど、イケます?」。さらにそんなリビングで「ワインを飲みながら、ビール飲みたい」とボケると「よくないですよ、体に! さっき、よかったら鳥皮あったんで」と前のボケを差し込み笑わせたりもする。

こうした練られたやり取りの連鎖が、みるみる観客を魅了していった。大会終了後の優勝記者会見でよじょうが「去年早めに負けたんで、正直ネタのストックあった」と語っている通り、「物件ネタ」「サプライズネタ」「歌ネタ」と3回戦い抜くだけの準備があった。この点は、昨年ネタの幅広さを見せて優勝したギャロップと通じるものがある。

結成間もなく2005年の「M-1グランプリ」で準決勝進出。しかし、そこからラストイヤーまで一度も決勝まで勝ち上がることができなかった。第1期のM-1が終了した時期には解散の話も出たようだが、「(筆者注:漫才で)何者かになって辞めよう」と踏みとどまった。

そんな2人が今大会で優勝を果たし、改めて引退を撤回したのが感慨深い。今後、ますます円熟味を増した漫才を見せてくれることだろう。

漫才師の執念を感じたザ・パンチ

今大会でどの組よりもステージを楽しんでいたのが、準優勝したザ・パンチの浜崎とノーパンチ松尾ではないだろうか。

初戦でタイムマシーン3号を下し、準決勝でタモンズを撃破。その勢いのまま優勝するかと思いきや、決勝でぶつかったガクテンソクに「294点/243点」の大差で撃沈。ここまでセットで、ザ・パンチの笑いだとさえ思えた。勝敗以前に、自分たちの漫才を楽しもうとする姿勢が伝わってきたからだ。

例えばセンターマイクへとやってくるまでの間に浜崎がコミカルな動きを見せ、2本目の漫才の冒頭で「久しぶり」「ちょっと〜、大きくなったね」とニコニコ顔で客の反応をうかがったりする。またネタ中、浜崎が相方の松尾の言葉に空返事した後、奔放な言動で笑わせるシーンは往年の漫才コンビ、昭和のいる・こいるの芸風を思わせた。

披露したネタはどれも浜崎のキャラを生かしたものだったが、とりわけ目を引いたのが3本目のネタだ。松尾が高校時代にサッカー部に所属していた話を持ち出し、浜崎に当時のあこがれだった“スカウトの人に声をかけられるシーン”を演じさせてほしいと依頼する。

すると、スカウトマン役の浜崎が生徒役の松尾に「キミさえよければ、すぐにでも我がチーム『築地オサシミフナモリーズ』に入ってくれないか?」「キミの足にぴったりの長靴を用意している」「明日の朝2時にきてほしい。約束しよう、絶対に靴下は濡れない」などと魚屋を彷彿とさせるワードで勧誘を続ける。

その後も浜崎のボケは止まらず、「サッカーでゴールを決めたときの快感と仕入れ過ぎたと思った鯖が全部売り切れた快感、よく似ているよ!」などと熱く松尾に迫っていく。途中、松尾が頭を叩いてツッコむと、我に返ったように顔をぷるぷるとさせて笑わせるシーンも浜崎らしい。

驚いたのは、後半で松尾が「次、魚屋でお前がきたら、俺はお前を殺めてしまうかもしれない」と忠告し、すぐに浜崎が「ギョギョギョ」とボケた後のシーンだ。これを受けて松尾は「今日何しにきたの? ねぇ砂漠でラクダに逃げられてぇ〜!」と嘆くように声を上げた。彼らがブレークした2008年当時、ネタ中によく松尾が口にしていたフレーズだった。

決勝でこれを持ってくるあたりに、漫才師としての執念を感じた。大会の結果は準優勝だが、ザ・パンチのエンターテインメントショーと考えればパーフェクトだったのではないだろうか。

芸風が違う2組がぶつかる決勝

残念ながら準決勝で敗れた金属バットとタモンズも、上位2組に負けず劣らず貫禄のパフォーマンスを見せた。

金属バットの小林圭輔と友保隼平は、1本目で“致死量の大阪弁”で作られた「大阪交通安全カルタ」を紹介するネタ、2本目で小林の趣味である料理を友保が「料理なんか」と軽視したところから始まる説教ネタを披露した。

見た目に反してわかりやすい正統派のしゃべくりながら、大阪色が強いワードを連発し、先輩の騒動をイジって笑わせるような“危うい魅力”を放っている。有田哲平は「めっちゃ堂々としてる」と驚き、MCの東野は「むき出しの大阪弁、久しぶりに聞いた」と喜んでいた。彼らにしかできない漫才なだけに、ぜひ来年も出場し大会を沸かせてほしい。

タモンズの大波康平と安部浩章は、1本目で高い買い物のエピソードから安部の趣味である特撮ヒーローグッズの話へと展開するネタ、2本目はお互いに贈り合っているという誕生日プレゼントにまつわるネタで勝負した。

安部の特徴的な声色とコミカルな動きを見たMCの東野は「こんなおもしろいおっさんおんねや」と目を輝かせ、準決勝でザ・パンチと対戦する姿を見届けた博多大吉は「タモンズがこうやって世の中の皆さんに知られたっていうのはすごくうれしい」と感慨深げだった。彼らの持ち味は視聴者にも十分に伝わったことだろう。

そのほか、ハンジロウのたーにーとしゅうごパークは「元嫁カフェ」という一風変わった設定のネタ、ラフ次元は空道太郎の言葉に梅村賢太郎が翻弄され続けるネタで会場を沸かせ、ななまがりは森下直人が奇妙な女性を演じて既婚者の初瀬悠太を誘惑するネタ、タイムマシーン3号は関太がオリジナルアニメのイケメン役などを演じる中で山本浩司が的確にツッコんでいくネタ「太ったアニメ」で笑わせた。

ザ・パンチは本番中にMCの東野から「早くバラエティーで共演したい」と直接オファーを受けて歓喜し、ガクテンソクは優勝記者会見で「(筆者注:吉本興業の常設劇場で)トリとかやってみたい」と次の目標を口にしていた。芸風や志向が違う2組が決勝でぶつかるのも『THE SECOND』ならではだと感じる。

昨年と同じく、今大会もあっという間の4時間だった。上位2組だけでなく、ファイナリスト全組の活躍が今から楽しみだ。