発達障害に多いという不登校問題。親としては、なんとか学校で友人たちと楽しく過ごしてほしいと思ってしまいますが、どう対応するのが正解なのでしょうか?

『マンガでわかる 発達障害の子どもたち』(SBクリエイティブ刊)の著者であり、臨床経験30年以上の児童精神科医の本田秀夫先生に、子どもの発達障害について解説いただくインタビュー連載(全3回)。2回目となる本記事では、

・発達障害の子が学校に行きたくなくなる理由

・登校のモチベーション

などについてお聞きします。

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お話をしてくださった方
本田 秀夫 先生
(信州大学医学部子どものこころの発達医学教室教授)

発達障害の子は、なぜ学校に行きたくなくなりやすい?

―― 発達障害の子は不登校になりやすい、と聞いたことがあります。これは、学校という「社会」に合わなかったからなのでしょうか?

本田秀夫先生(以下、本田) そうですね。

―― 発達障害の子が不登校になる前に親や学校の先生ができること、注意点などはありますか?

学校に行きたくなる「3つのモチベーション」

※画像はイメージです

本田 学校に行くモチベーションとしては、

「勉強がよく分かって楽しい」

「学校で行われる勉強以外の活動が楽しい」

「学校の中での対人関係がうまくいっている」

の3点があげられます。この3つのうちのどれかが満たされていれば、多少嫌なことがあっても、学校には行こうとは思うんですね。逆に、これが全て満たされないと学校に行けなくなります。

まずは、「学校で行われている授業が、発達障害の子によくわかっていて、かつ楽しいものであるかどうか」をしっかり見てほしいと思います。

教育現場では一斉指導でクラス全員に同じことを同じペースでやらせようとすることも少なくありません。これが発達障害の子にフィットしない時に、先生によっては「みんなもやってるのだから、あなたもやりなさい」と押し付けてしまいがちです。これはやめてほしいですね。

「学校に行きたくない」その時、親ができることは?

―― 発達障害の子が学校に行きたがらなくなった時、不登校になりかけていそうな時に、家庭ではどんなことができるのでしょうか?

本田 保護者の方は、基本的に「家庭で家族が平和に楽しく過ごせるようにする」のを心がけていただきたいです。お子さんだけでなく、家族みんなが心穏やかに楽しく過ごすということです。

登校を無理強いせず、家庭を安心できる場所に

※画像はイメージです

本田 不登校になり始めた時期は、お子さんに「学校に行きなさい」などと、親御さんがなんとか無理にでも登校させようとすることもあるでしょう。

そうすると、親子関係がギクシャクするし、学校にいるのがつらいから登校しないのに、家にいることまでつらくなってしまう。子どもが安心して過ごせる居場所がなくなるわけです。子どもに「休みたい」と言われたら、「じゃあ今日は休もうか」と返してあげてかまいません。

―― 何が何でも行きなさい、とは言わない方がいいんですね。

本田 「そんなこと言わずに行きなさい!」と跳ね返すのではなく、子どもが行きたくない理由をしっかり聞いて「それは大変だね」とか「そのことは、親と先生で話してみようか」などと受け止めてほしいですね。

なぜ学校に行きたくないのか、理由を探る

本田 不登校はある日突然、全く行かなくなるわけではありません。「行きたくないなぁ」などと言い出したとしても、促せばはじめのうちはしぶしぶながら学校へ行くでしょう。その後、登校を嫌がる頻度が増えたり、実際に行かなかったり、いくつかの段階を踏んでだんだんと本当に行けなくなっていくんです。

だから本人が「学校に行きたくない」と言い出した時に、どんな理由で行きたくないのかを探ることが大事でしょう、本人に「学校でどんなことがあったのかな」「どんなことが嫌だった?」などと、事情を聞いてみてください。

不登校になった時、学校とはどう連携する?

―― 実際に不登校になっても、子ども自身が「自分で何とかするから言わないで」「先生には内緒にして」ということもあります。学校に相談する前に、子どもにも「先生に言っとくよ」って伝えた方がいいでしょうか?

先生と相談し、教室以外の登校も検討

※画像はイメージです

本田 先生がコミュニケーションをちゃんととれる人であれば、基本的には学校側と親御さんで密に連絡を取っていただいていいと思います。

クラスの対人関係の悩みで、不登校になっているケースでは、話し合いなどである程度修復・回復できそうなものであれば対応していただきたいですね。それとともに、相談室や保健室、適応指導教室など、教室以外に通える場があれば情報提供してもらう。「教室にこだわらなくても学校には来れるんだよ」という選択肢を増やすということですね。

楽しみな学校行事は、登校のモチベーションにも

本田 また、お子さんが学校に行きたくなるような行事やイベント、活動の予定などを、子どもに直接でもいいし保護者の方を通じてでもいいので、伝えていただきたいです。

――「今度クリスマス会をやるよ」とか「音楽会があるよ」って言われて、学校に行く気になることはよくあるんですか?

本田 ありますよ。行事だけは絶対に行く、ってお子さんもいます。

きっかけづくりは大事。でも、目標は「楽しく生きること」

―― なるほど。じゃあ、午前中は行けないから給食を食べに行こう、とかでもいいんでしょうか?

本田 そうですね。ただ、「学校に行けるようになること」をあまり目標にしない方がいいです。

―― では何を目標にしたらいいでしょう?

本田 毎日楽しく生きることです。学校に行く、行かないじゃなくて、「この子が楽しく明るく毎日を過ごすために、何をしようかな」って考える方がいいですね。

(解説:本田秀夫、取材・文:大崎典子)

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本田秀夫
この記事の監修者
本田秀夫
精神科医。医学博士。横浜市総合リハビリテーションセンターで20年にわたり発達障害の臨床と研究に従事。2011年、山梨県立こころの発達総合支援センターの初代所長に就任。2014年、信州大学医学部附属病院子どものこころ診療部部長。2018年より信州大学医学部子どものこころの発達医学教室教授。2023年より長野県発達障がい情報・支援センターセンター長を兼務。著書に『自閉症スペクトラム』『子どもの発達障害』(以上、SB新書)、『マンガでわかる 発達障害の子どもたち』(SBクリエイティブ)などがある。発達障害に関する学術論文も多数執筆。日本自閉症スペクトラム学会会長、日本児童青年精神医学会理事、日本自閉症協会理事。
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大崎典子
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