「パワハラは人を成長させる」なぜか賛否両論
ある不動産コンサル会社の社長が、X上で「パワハラが人を成長させるのは間違いない」と投稿し、物議を醸している。複数の経営者が賛同のコメントを寄せる一方で、「パワハラは犯罪」「時代錯誤」などと激しく反発する声も多い。投稿した社長本人に話を聞くと、「この件はネタ」として取材は拒否された。「パワハラ」という強い言葉を使用したがために、ネット上では注目を浴びたが、「厳しい環境で育った人のほうが大きく成長する」という説に同調する意見は多い。人材コンサルティングの専門家は、件の投稿を「注目を集めるための発言だった可能性もある」と冷ややかに見る。
不動産コンサルを経営する起業家がX上に11月27日、パワハラを推奨するかのような投稿をして物議を醸している。
「パワハラが人を成長させるのは間違いない。ハッキリ言って20代で自分の限界以上追い込まないと30代以降突き抜けるのは無理。現に成功者の話を聞くと殆ど過去に上司からのパワハラエピソードがあるのは事実!ただ、年月が経つと不思議とあの時の憎しみが感謝に変わる。ある意味今の若い子の環境は可哀想」
この投稿を受け、企業経営者とみられる人物たちから「その通りだと思います」「間違いなく成長します」「これは真理です」など、賛同するコメントが続出。さらに、パワハラによって自身も成長できた、といった体験談を述べる人も散見される。
だが、「パワハラは違法行為だ」と指摘する声も多く、元の投稿には「パワハラ行為は労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律により事業主にパワハラを防止する義務がある不法行為です」とのコミュニティノートが付加された。
X上で大きな注目を浴びることとなった投稿者に、ポストの真意を聞くために取材を依頼したが、「今回の件はネタです」としてコメントは拒否された。
そこで人材コンサルタントに、件の投稿について見解を聞いた。
「『ネタです』と発言していることから、“パワハラが人を成長させる”というインパクトのある言葉で注目を引こうとしている一方で、本音も垣間見えます。いくつかのコメントで指摘されているように、パワハラは不法行為を形成します。おそらく、元の投稿者も、賛同している人も、パワハラと厳しい指導の区別がついていないのだと思います。指導を受ける側の人の受忍限度を超えて厳しい指導や過剰なノルマを課すことがパワハラといえ、人によって受忍限度が異なるので一概にラインは引けませんが、パワハラと推奨するような発言は、たとえネタであっても経営者失格といわざるを得ません。
また、成功者の多くが若い時にハードワークをしたのは事実としてありますが、誰もが起業したいわけでも成功者になりたいわけでもありません。ハードワークを強制すれば誰でも成功するかのような思想は、極めて危険です。成長したいと思い、自らハードワークする分には他人が止める必要もありませんが、決して強制してはならないのです。それを理解していない経営者の下で働くのは不幸でしかありません」
ちなみに厚生労働省はパワハラを次のように定義している。
同じ職場で働く者に対して
(1)優越的な関係を背景とした言動であって、
(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、
(3)労働者の就業環境が害されるもの
そして具体的には、(1)身体的な攻撃、(2)精神的な攻撃、(3)人間関係からの切り離し、(4)過大な要求、(5)過小な要求、(6)個の侵害の6つを挙げている。2022年4月からは、パワハラを防止するための取組をすることが、事業規模にかかわらず“すべての事業主”に義務づけられている。
過度な要求や人格を否定するような発言が、「人格権の否定」として民事上の損害賠償が認められた判例もある。また、パワハラやいじめの繰り返しによって精神を病んだことが傷害の罪になるとされた例もある。“パワハラが人を成長させる”などと誤った考えによってパワハラを行えば、刑事上と民事上の問題を抱えかねないのだ。人を指導する立場にある者は、くれぐれも慎重に人間関係を形成すべきである。
以上、ビジネスジャーナルから紹介しました。
編集者:いまトピ編集部