【異常事態】「小学校教員」採用合格280人の7割が辞退
高知県の2025年度採用の教員採用試験において、小学校教諭として合格した280人のうち7割超の204人が辞退するという事態が発生(29日時点)。別の自治体では定員割れも発生しており、背景には残業代なしでの長時間残業や重い業務負荷といった教員の過酷な労働環境が社会的にクローズアップされていることがある。このまま教員不足は深刻化していく一方なのか、何か有効な対策はないのか。現役・元教員への取材をもとに追ってみたい。
高知県教育委員会の発表によれば、25年度の小学校教諭の採用予定者数は約130人。現時点の辞退者数を前提とすると54人が不足する計算になる。県教委は13人に追加合格を出し、12月には2次募集を行う予定としている。
公立学校教員の採用試験の受験者数は年々減少している。東京都の25年度採用の教員採用試験の最終倍率は1.7倍で、2年連続で2倍を下回った。なかでも小学校の受験倍率は1.2倍となり、昨年の1.1倍から大きくは上昇せず、定員割れ寸前といえる状況。
すでに定員割れが起きている自治体もある。熊本市の25年度採用の市立学校教員採用試験では、採用予定の314人に対して合格者が52人不足した。受験者数が採用予定数を下回る校種もあった。2次募集は経験者を対象とし、筆記試験は実施しない。大分県の23年度採用の採用試験では、採用見込み数200人に対し受験者数は198人、合格者数は159人となり、大幅な定員割れとなった。
文部科学省の発表によれば、23年度の全国の公立学校教員採用試験の受験者総数は前年比4.2%減の12万1132人、採用者総数は同4.9%増の3万5981人で、倍率は同0.3ポイントダウンの3.4倍で過去最低を更新。受験者数は10年連続の減少、倍率は13年連続のダウンとなっている。
「教員の質の維持という観点から、採用試験の受験倍率が2倍を切るとマズイといわれています。受験者数が採用予定数を下回っても、受験者全員が筆記試験や面接で合格と判断されるわけではないので、一定数の不合格者は生じるため、教育委員会は追加募集をかけたり、教職を離れている教員経験者を募集したりします。受験者数が倍率2倍を切るほど顕著に少ないと、どうしても数の確保のために合否判定が緩くなってしまいがちになる。すると、これまでだと不合格になっていたような人材も合格するようになり、長期的にみると教員の質の低下につながっていきます」(中学校教員)
毎日朝7時30分から夜11時まで働く
公立学校教員の志望者が減っている要因の一つが、残業代なしでの長時間におよぶ勤務が常態化していることだ。21年に名古屋大学の内田良教授らが全国の公立小学校の教員466名、公立中学校の教員458名を対象に行った調査によれば、1カ月の平均残業時間は100時間以上におよぶという。また連合総研が22年に発表した報告によれば、教員の勤務日の労働時間は平均12時間7分で、週休日の労働時間を合わせると1カ月の労働時間は293時間46分であり、時間外勤務は上限時間の月45時間を上回り、さらに過労死ラインを超えているとしている。
「朝のホームルームから放課後の部活指導や校内分担業務、帰宅後の授業の準備などを含めると、毎日朝7時30分から夜11時まで働いています。これに土日の部活指導や研究授業の準備なども加わるので、部活指導に多くの時間を割かなければならない教員の場合は月の残業時間が150時間を超えてきます。そこまで部活動が大変ではなくても残業時間が月100時間を超えるケースはザラです。教職調整額が13%に引き上げられても、月のいわゆる定時時間内の労働時間を一日8時間×20日=160時間と仮定すると、その13%で約20時間分にしかなりません。これでは、どう考えても割に合いません。教師のなり手不足という意味では、志望者が減っているのに加え、民間企業に転職したり、激務で心身不調になり休職してそのまま退職する人も少なくないです」(公立中学校教員/9月24日付当サイト記事より)
教職調整額を引き上げ
こうした実態が生じる原因の一つとして、公立学校の教員には残業代が支給されないことがある。残業代の代わりに月給の4%相当を上乗せして支給する制度「教職調整額」があるが、「定額働かせ放題、どれだけ残業しても一定の上乗せ分しか支払われない」(5月13日放送のNHKニュース番組)と問題視されてきた。
教員のなり手不足の深刻化にともない、国は対策に乗り出しつつある。文部科学省は教職調整額を月給の13%相当に引き上げる案を25年度予算概算要求に盛り込む。学級担任への手当は月額3000円、管理職手当は月額5000~1万円増額することを検討している。新卒1年目は学級担任を免除することや、生徒指導担当の全中学校への配置も検討している。各自治体の教育委員会レベルでも取り組みが行われている。10月11日付「FNNプライムオンライン」記事によれば、熊本市教育委員会は、教職を離れている教員免許を持つ人を対象とする「ペーパーティーチャー講習会」を開催したり、教職に関心を持つ大学生を学校に派遣して学習の補助などにあたらせて謝礼金を支払う「学校教育アシスタント事業」を行ったり、大学から推薦された者の1次試験を免除する「大学推薦制度」を導入したりしている。
こうした対策は効果があるのか。
「効果はないと思います。教員の労働環境がブラックだというイメージがこれだけ広がってしまうと、教職調整額をちょっと上げただけで志望者が増えるということはないでしょう。一番の大きな問題は長時間残業と、その残業時間に見合った残業代が支払われない点です。長時間残業の要因は、部活動指導と校内分担業務、教育委員会への報告のための各種資料作成などです。若手教員の場合、これに研究授業の発表準備などが加わります。なので残業を減らそうとすれば、これらをやめるか、新たな人員を雇って任せるしかないので、極めてハードルが高いです。
また、学校は各自治体の教育委員会の顔色を窺って動いており、そして学校と教育委員会というのは地域ごとに非常に閉鎖的な社会なので、国がいくら音頭を取ってやろうとしても無駄のような気がします。長時間残業に関しても、学校は教育委員会から目をつけられるのを恐れて、教師の正確な就労時間や労働環境の問題点を報告していないケースも多く、結果的に国が教師の労働実態を正確に把握できていません。これでは国は必要な施策を打つことはできません」(中学校教師)
「今は民間企業の給与が上昇して、かつホワイト企業化が進んでいるため、大学の教育学部を卒業しても教師にならず民間企業に就職する人も少なくないです。教員は残業代なしでの働かせ放題になっているのが現状で、民間企業と同様に月45時間なり60時間以上の残業を禁止したり、残業した分はしっかり残業代を支払うといったように、当たり前の仕組みを取り入れない限り、志望者の減少、つまり教員不足の解消は進まないでしょう」(別の中学校教師)
ビジネスジャーナルが報じた。
編集者:いまトピ編集部