『TBSドラマ』第7話「障害者を演じる」ということ覚悟を見る…全身全霊で役に向き合う
ASDの青年・みっくん(坂東龍汰)とその兄・ヒロト(柳楽優弥)、そして2人が暮らす家に突然現れた男児・ライオン(佐藤大空)が繰り広げるドタバタハートウォーミングコメディにしんみりしていたら、さまざまな謎がバラまかれるハードサスペンスが差し込まれるという二重構造で見ているほうの脳みそも忙しかったドラマ『ライオンの隠れ家』(TBS系)も第7話。
前回あたりからようやく情報が整理され、とりあえず主役の3人だけを眺めていればよさそうな感じになった今回は、たいへんシンプルで見やすかったですね。3人の関係性の変化を負いつつ、お芝居を楽しめる回となりました。
父親であるDV男(向井理)からライオンを守ること、そしてライオンのママで自分の姉でもある愛生(尾野真千子)が迎えに来るまで3人で笑顔で暮らすことを誓ったヒロト。長年暮らしてきた家を「隠れ家」とするつもりでしたが、週刊誌記者の工藤楓(桜井ユキ)が早くもその居場所を特定して訪ねてきますし、どうやらDVマンにヤサが割れるのも時間の問題のようです。
勤めていた市役所を休職し、佐渡にある同僚の別荘を頼って逃避行の旅に出ることにしたヒロトでしたが、イレギュラーが起こるとパニックになってしまうみっくんを連れ出すのはなかなかに難儀です。今まで通りこの家で暮らし、仕事場に通いたいみっくん。そんなみっくんに対し、ヒロトは「ライオンのパパが殴りに来るから逃げましょう」などと言えるわけはありません。「3人で旅行がしたいんだ」何度も、何度も、ヒロトはみっくんを説得します。
「お兄ちゃんにも、やりたいことがありますか?」
あまりにも必死なヒロトに、みっくんはそう問いかけます。このセリフは重いよね。ある意味で、3人のパートはこのセリフにたどり着くためにあったんだと思いました。
ヒロトは、大学に進学したとき「もうこの家に帰らなくていいと思った」とみっくんに語り掛けます。ASDの人間を家族に持つこと。それは、愛情とは別の話としての恒常的な苦痛を伴うものであるとドラマは告白します。みっくんから発せられてきた無意識の拘束力、その加害性。両親を亡くし、夢をあきらめ、大学を辞めて家に戻ったヒロトは再び「みっくんのお世話」という日常に拘束されていくことになる。おそらくは10年かそこら、ヒロトは「やらなければならないこと」だけをやってきたわけです。
「3人で旅行がしたいんだ」というヒロトの願いは、やりたいことだけしかできないみっくんにとって、生まれて初めて感じた兄の自己主張だったはずです。やりたいことを「やりたい」とさえ言えない人生を、ヒロトは生きてきたということです。
「お兄ちゃんにも、やりたいことがありますか?」
ずっと家族を守ることだけを考えて生きてきたヒロトという人物の「やりたいこと」は、相変わらず家族を守ることにほかなりません。変わったのはヒロトではなく、家族を取り巻く状況のほうでした。しかしその状況を理解しないみっくんは、それを兄の変化ととらえ、“旅行”に行くことに同意するのでした。
ASDの青年を演じるにあたり、坂東龍汰は時間をかけて取材をしたといいます。実際に当事者やその家族に会い、作り上げた「みっくん」というキャラクターの造形は確かに画面の中で的確に再現されています。
しかし、その取材対象となった障害を持つ方々に、取材期間中にこのドラマで描かれるような変化が訪れていたとは考えられません。坂東龍汰は取材や経験によって作り上げた「みっくん」を、今度は芝居の中で成長させていかなければならないわけです。そこにはモデルも道標もない、自分で考えて咀嚼して演じていかなければならないということです。
今回、みっくんが一旦は旅を拒否し、それを了承していくプロセス。1人ではコンビニで牛乳を買うことさえ難しかったのに、旅を経てド田舎のスーパーでお肉を買ってくることができるようになっていく。第1話では「困らせる側」でしかなかったみっくんが、「手助けする側」になっていく。
そのみっくんの変化を演じる坂東龍汰のまなざし、表情、セリフ回し、お芝居のすべてに、この俳優さんの「役」というものへの真摯な態度を見るのです。
週刊誌記者の工藤が、勝手に取材途中の記事を公開した部下の天音(尾崎匠海)に対して、「出した記事がどこにどういう影響を与えるか1回でも考えたのか」と激高するシーンがありました。ドラマだって一緒です。障害者をリアリティをもって忠実に演じることで、どこにどんな影響を与えるかわかりません。思わず目を反らしたくなってしまう人もいるだろうし、トラウマを刺激されて不快になる人だっているかもしれない。でも、だからこそ、もう全身全霊で役に向き合うしかないんだよな。そんなことを考えさせられる回となりました。
と、日刊サイゾーは報じた。
編集者:いまトピ編集部