佐々木『15年』取り戻すまでの日々「生きるためにやるしかなかった」
突き抜けた男たちの魂の叫び。新連載「死ぬ前までにやっておくべきこと」第1回は、プロレスリングFREEDOMS代表の佐々木貴氏に話を聞いた。
それは“生きるために選んだ死(デス)”だった。
束になった蛍光灯が脳天を叩き割り、剃刀が刃を向ける十字架ボードに身体を叩きつけられる。鮮血が飛び散り、血塗れの身体で恍惚の表情を浮かべる狂気とも思えるこの世界で、男は文字通り生き残りを賭けて15年の間戦い続けてきた。
「このまま死んでいくのは御免だ。もう誰にも縛られず、自由に自分たちのやりたいプロレスを追求していく。そんな新しい団体を俺たちで作らないか」
すべてはそのひと言から始まった。15年前、東京・渋谷の喫茶店で、体制に棄てられた5人を前に決意を示した男。彼の名は佐々木貴。「プロレスリングFREEDOMS」通称ダムズの代表取締役社長にして、デスマッチレスラーでもある。
「振り返ってみたら15年ですよ。ただ僕には運がある。明日どうなるかも分からないから、ただ前だけ向いてガムシャラに突っ走って、気が付いたらこんな所に来ていた。あんなことも、こんなこともやって、長い年月で少しずつでも積み重ねてきたんだなって」
2024年9月。旗揚げ15周年の記念大会を成功させたダムズは、今や日本屈指のデスマッチ団体として名を馳せるようになった。星のように生まれては消えていくのが常のインディー団体において、今では大メジャー団体、新日本プロレスと交流戦もやれば、アメリカから招待選手として招かれるなど、次々と不可能を可能にしてきた。
だが、その始まりは今にも消えてしまいそうな小さく燻った火だった。
2009年9月。所属していたアパッチプロレス軍の看板レスラーの不祥事から団体は崩壊の危機に瀕していた。当時の社長やスタッフは責任を放棄して逃げ出し、佐々木をはじめとする若手レスラー5人が闇の中に放り出された。
「団体存続の道を模索していろいろやってみたけどダメで、どこかの団体に拾ってもらうかフリーになるか…となったとき、これまで一緒に頑張ってきたのに、こんなことで終わりなのか…って。家を失った野良犬たちがキャンキャン吠えているのをほっとけなかった…というかね。なかには大ケガで休んでいる選手もいて、そういうやつらと、それならば俺らが生きていくための犬小屋を作ろうよ、という感じでしたね」
渋谷の喫茶店に集まった5人は、佐々木の新団体設立の提案に全員が「やろう!」と決起。新しい団体はGENTAROの「もう俺たちの自由にやろうよ」という発言で、「FREEDOMS」に決まった。
「アパッチの最後が、ものすごく淀んだ暗い空気でお客さんも、自分たちも楽しめていなかった。その空気をなんとか打ち破りたかったんです。せっかくプロレスが好きで、苦しいトレーニングにも耐えてやってきたのに、俺たちは何をしているんだ。プロレスはこうじゃなきゃいけないなんてものじゃない。何者にも縛られないもっと自由なものなんだから、俺たちがやりたいことをやろうよ。そんな始まりでした」
自由で楽しい俺たちのプロレス。それは、ダムズに所属するレスラーのそれぞれの強みを活かしたレスリングスタイルだった。団体にはシブいテクニシャンもいれば、ルチャ出身の選手や大型選手もいる。そしてエースには、葛西純というデスマッチのカリスマがいたのだ。
佐々木は葛西と共にデスマッチのリングで血を流しながら、試合後にはまったく未知だった団体の運営を勉強し、試合をするために東奔西走した。
「生きるためにやるしかなかったんですよ。そのとき、僕自身も子供が生まれたばかりだった。プロレスラーになったときから『いつまでそんな遊びをやっているんだ』みたいに散々言われてきたけど、いつだって『俺プロレスで家族を守るから』と根拠もないのに言い続けてきたんです。息子の誕生はもう一段ケツに火をつけてくれました。
結局、誰かのためというのが一番強いですよ。うちの団体は、プロレスラーには珍しく家族持ちが多い。だから食いっぱぐらせることはできないし、なぜこんな血塗れになって痛い思いをしながらやれるのかって、生きるためですよ。葛西は『生きて帰って子供の寝顔を見るまでがデスマッチ』と言ったけど、生きて、家族を養っていく。その覚悟があるからできるんです」
デスマッチとは、死が傍にあるからこそ、必ず生きて帰らなければいけない鉄の掟がある。ケガをして試合を欠場するのはアマチュア、命を落とすのは素人以下。時に剣山が頭に刺さり取れなくなったこともあれば、3階の高さからダイブもした。死地を何度も乗り越えてきたからこそ、生きることへの矜持を持つ。
「デスマッチは生き様であり覚悟です。普通の人が見ればバカなことをやってるって思うでしょう。でもそこに『これが俺の生き方だ』と胸を張れる生き様があるから、お客さんは熱狂し、時に涙を流してくれる。お客さんとも勝負です。『明日からも頑張ろう』という顔にしたい。みんな悩みを抱えて生きているなか、少しでも背中を押せる戦いができればと思っています」
小さく燻っていた火は、自分たちの「生きたい」という情熱で大きく燃え盛った。しかし、そんな炎をも一瞬で消し去るような出来事が起こる。2020年。新型コロナによって、ダムズは経験したことのない危機に見舞われてしまう、と週刊実話WEBが報じている。
編集者:いまトピ編集部