サイゼリヤ、強い信念

原材料・エネルギー価格・人件費の上昇を受けて値上げが進行する外食業界において、「値上げはしない」と宣言しているイタリアンチェーン「サイゼリヤ」。低価格を維持しながらも2024年8月期は経常利益が前期比96.0%増と約2倍の156億円、国内事業は営業利益が27億円の黒字と19年8月期以来の黒字に転換。その経営努力も注目されているが、国内事業の売上高営業利益率は1.9%と、10%台も珍しくない大手の競合他社に比べて低く、株価も過去1年間のピーク値である6300円(24年7月24日)から4460円(今月19日)まで約3割下落し、PER(株価収益率)も20倍台前半と競合他社より見劣りするなど、市場からの評価としては苦戦しているとも指摘されている。
だが、裏を返せば苦しい経営を強いられても低価格を維持することで利益を顧客に還元しているという見方もできるが、現在の同社の経営をどう評価すべきか。また、近い将来、どこかで値上げを余儀なくされるタイミングを迎えることになるのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。
国内に1038店舗、海外に531店舗(2024年8月期)を展開するサイゼリヤといえば、リーズナブルな価格でクオリティの高い料理を楽しめ、多くのファンを持つことで知られる。200円の「柔らか青豆の温サラダ」、300円の「辛味チキン」「ミラノ風ドリア」「ポップコーンシュリンプ」、400円の「ミートソースボロニア風」などお手頃な価格で味わえる人気メニューを抱えている。今月13日にはグランドメニューの改定を行い、「ミニフィセル」や「プチフォッカ」がなくなったことや、平日のランチタイムはすべての来店客がランチスープをおかわり自由で飲めるようになった点、新メニューとして「タラコとポップコーンシュリンプのドリア」(400円)や「ポップコーンシュリンプとタラコのクリームグラタン(全粒粉)」(430円)が加わったことなどが話題となった。
その一方、最近では全店舗でみると徐々にメニュー数が減りつつあることを残念がる声も出ていた。ここ数年を振り返ると、「カリッとポテト」、フランスパン風の「ミニフィセル」、スパゲッティメニューの「大盛り」「おこさま」サイズ、トッピング用粉チーズ「ペコリーノ・ロマーノ」、「エビと野菜のトマトクリームリゾット」などが全店舗、もしくは一部エリアで販売終了となっている。
そんなサイゼリヤの業績は好調だ。24年9~11月期の連結決算は売上高が前年同期比16%増で同四半期としては過去最高となる612億円、営業利益が同13%増の39億円。国内の既存店売上高は同22%増となっていることから、多くの客から支持を得ている様子がうかがえるが、前述のとおり内実としては厳しい経営を強いられているとの見方もある。
外食・フードデリバリーコンサルタントの堀部太一氏はいう。
「同社の業績をみる際には国内事業と海外事業を明確に分けるべきです。24年9~11月期の国内は売上高が395億円、営業利益が5億円で利益率は1.29%、アジアはそれぞれ221億円、32億円で利益率は14.8%。つまり国内の収支はギリギリの一方、海外で稼いでいるという構造です。利益の83.8%をアジアで稼ぎ、次にオーストラリア、日本と続きます。
国内事業は原価率が上昇傾向のなかで売上を伸ばし続けることで、なんとか販管費率を下げている状態ですが、国内の利益率は1%台と利益はほとんど出ていません。最低賃金や社会保険料が年々、上昇しているため、なんらかの要因で客数や売上の伸長が止まったり、急激に販管費が上昇するようなことになれば、再び赤字に戻る可能性も出てきます」
売上高営業利益率が低いということは、裏を返せばそれだけ利益を顧客に還元している=顧客ファーストとも評価できるのではないか。
「そのような評価もできるといえます。アジアで稼いだからこそ、日本人が安く食べられるという構造です。これは利用するお客の側からすれば嬉しいことですが、外食産業全体の側からみると、企業は原価の上昇に応じて適切に値上げをすべきところを、サイゼリヤだけが海外事業の利益を使って低い価格のまま据え置くというのは、健全な競争といえるのかという点は議論があるかもしれません」
では、「値上げをしない」と宣言しているサイゼリヤですが、現在の経営状況が続くと、どこかで値上げをしなければならないタイミングを迎える可能性はあると考えられるのか。
「国内の値上げをしないというのは、経営者の強い信念でもあり、海外で利益を稼ぐ一方で国内で低価格を維持するというのは一つの経営戦略としてはありだとは思いますが、インフレ前提の社会なので、いずれは値上げをすることになる可能性が高いと考えられます」
とBusiness Journalは報じている。
編集者:いまトピ編集部