AI開発競争、グーグルの圧勝
今、米国では「結局、AI開発競争でもグーグルの圧勝に終わる」という言説が一部で話題になっているという。確かに、直近におけるグーグルのAI開発に関する動きのスピードはすさまじい。3月、同社は「もっともインテリジェントなAIモデル」と説明する「Gemini 2.5」を発表し、「Gemini2.5 Pro」を1.25ドル(20万トークン以下)、2.5ドル(20万トークン超)で提供開始。これを受けOpenAIは4月、1カ月半前にリリースしたばかりだった「GPT-4.5」を廃止すると発表。価格は100万トークン入力につき75ドルと高額だったが、多くのベンチマークで「Gemini2.5 Pro」のほうが上回っていたためだ。
今月20日に開催されたグーグルの開発者向けイベント「Google I/O 2025」では、新AIエージェント「Project Astra」や拡張現実(XR)向けプラットフォーム「Android XR」としてGeminiを搭載したメガネ型デバイスとヘッドセットの開発、AIと会話できる機能「Gemini Live」でのカメラと画面共有機能の無料提供(AndroidとiPhoneに対応)、生成AIを活用した映像製作ツール「Flow」の提供、グーグル検索への「AIモード」導入などを一気に発表。なかでも「Gemini 2.5 Pro」と「Gemini 2.5 Flash」の機能強化により搭載された、会話の流れに沿った抑揚で応答する「Native audio output」(ネイティブ音声出力)や、ユーザーに代わってAIがブラウザ操作やアプリケーション操作、フォーム入力などを行う「Project Mariner」などが話題を呼んでいる。このほか、コード生成やバグ修正、コーディングタスクの分解などを行えるAIコードエージェント「Jules」も注目されている(現在はベータテスターを募集中)。果たしてネット検索市場の覇者であるグーグルが、AI開発競争でも覇者となるのか。また、なぜ同社は他社をリードできているのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。
グーグルの各種AIサービスのベースとなる「Gemini 2.5 Pro」は、その高いパフォーマンスに定評がある。100万トークンを取り扱うことができるため膨大な量のデータセットを理解でき、テキスト・音声・動画などの情報を入力させ複雑な処理を実行。コーディング・数学・科学のベンチマークで他社のAIモデルを上回る数値をマークし、リーズニング能力に優れている。今月21日には、グーグル検索の「AI Overview」と「AI Mode」に広告を表示すると発表した。
グーグルは今、大きな転換期を迎えているともいわれている。今月20日、最新AI機能を利用できるプラン「Google AI Ultra」を月額約250ドル(約3万6000円)で提供すると発表。これまで便利な各種サービスを無料でユーザーに提供することで巨額の広告収入を得るというビジネスモデルで成長を続けてきた同社だが、その路線を転換しつつあるという見方だ。
そんなグーグルをめぐって、前述のとおりAI開発でもグーグルが圧勝するのではないかという予測が広まっている。エクサウィザーズ「AI新聞」編集長・湯川鶴章氏はいう。
「直近の状況としては、グーグルが今月20日に開催した開発者向けイベント『Google I/O 2025』で多くのAIに関する新たな発表が一気に行われ、“グーグル優勢”という声が強まっています。昨年くらいまではAIモデルの性能を各社が競うというフェーズで、OpenAIのGPTがリードしているとみられていましたが、今年に入ってOpenAIやグーグル、Anthropic(アンソロピック)などの先頭集団が形成されてきたという印象です。そして各社の性能に大きな差がなくなってきたこともあり、モデルの性能だけではなくてコストパフォーマンスが重視されるフェーズに変わりつつあります。特に企業ユーザーは使用料が発生するので、コストを考えるとグーグルが選ばれやすくなっています」
なぜグーグルのAIは価格競争力が高いのか。
「低価格の中国ディープシークが出てきてから、よりいっそうコストが意識されるようになりましたが、グーグルは以前からAIサービスを提供するクラウドサービス用データセンターをどうすれば効率良く運用することができるのか、そのためにどうすれば効率の良い半導体をつくれるのか、ネットワークの仕組みを構築すればよいのかといった課題について、AIを使って取り組み、改良してきました。その結果、非常に高いコストパフォーマンスを実現できています。
一方、OpenAIはデータセンターを持っておらず、これまではマイクロソフトのデータセンターを使っていましたが、彼らも競争力のカギがコスパになりつつあるということを認識しているので、ソフトバンクと組んでStargate Projectを立ち上げてデータセンターを自前でつくろうとしています。ですが、今からデータセンターをつくると2~3年はかかるでしょうから、当面はグーグルが有利な状況が続くかもしれません」(湯川氏)
では、今後の勢力図としては、どのようになると予想されるか。
「多くの人が実際にAIを使うようになり、これからAIエージェントの時代になるといわれていますが、一つの会社のなかでも多くのAIエージェントが立てられるようになり、会社全体としてそれらをどのようにオーケストレーションしていくのかという点が重要になってきて、そのための仕組みづくりをめぐる競争が激しくなりつつあります。
もう一つの重要な動きが、パーソナルAIエージェントの普及です。個人の考え方、趣味・嗜好、行動履歴といったものをすべて理解した上で、その個人に最適な答えを返せる“個人秘書”“デジタル秘書”みたいなものを全ユーザーが持つようになるといわれています。そのパーソナライゼーションの部分の開発をめぐる競争がAI市場の勢力図を大きく左右すると考えられます。
マイクロソフトの製品は多くの企業に導入されているので、企業や社員一人一人のデータを蓄積・利用することができ、パーソナライゼーションの面では有利です。グーグルも個人ユーザーに加えて企業でもかなり導入されているので同様に有利でしょう。先日の開発者会議でもグーグルのCEOが、Gmailやカレンダー、Google Docs、Google ドライブなどのデータをすべて参照して、そのユーザーに最適な内容を返せるようにしていくと説明していました。一方、その点ではOpenAIは弱いです。とはいえ、現在ではGPTのユーザーは非常に増えてきており、ユーザー個人の情報をたくさん持つようになってきていますので、まったくダメというわけではありません。そうしたパーソナライゼーションの面で、どのAI企業が強くなるのかという競争になってくるでしょう」(湯川氏)、とビジネスジャーナルが報じている。
編集者:いまトピ編集部