『U-NEXT』売上高23%増1867億円、過去最高も『Netflix』は微減傾向、要因は

・U-NEXT、コンテンツ数で優位性、継続的にシェアを伸ばして国内動画配信シェア2位
・U-NEXT HOLDINGS、25年8月期第2四半期は上半期ベースで6期連続の過去最高益を記録
・店舗・施設ソリューション、通信・エネルギー、金融・不動産・グローバルなどBtoBも幅広く展開
Netflix、Amazon Prime Video、Disney+など、そのグローバルな資本力を存分に活かした外資系企業が強さを示す動画配信サービスにおいて、国内勢の筆頭格としてU-NEXTが業績を伸ばしている。グループの持ち株会社であるU-NEXT HOLDINGSの2025年8月期第2四半期決算短信によると、売上高は23%増の1867億円を達成。連結純利益は前年同期比8%増の94億円となり、上半期ベースで6期連続の過去最高益を記録した。
同グループは動画配信のU-NEXTのほか、長い歴史を持つ店舗向け音楽配信サービスやDXを推進するUSEN、施設向け自動精算機、通信・電力サービスなど、さまざまな分野の子会社を傘下に持つ。その内実と好調の背景、そして成長戦略について、U-NEXT HOLDINGSで執行役員CFOを務める西本翔氏に取材した。
国内の動画配信サービス市場において、U-NEXTは主力プレイヤーの中でも継続的にシェアを伸ばしている唯一のサービスであり、2024年時点で約18%のシェアを獲得し国内第2位(※)につけている。トップシェアのNetflixは微減傾向、Amazon Prime VideoとDisney+がともに横ばいで推移するなかで、U-NEXTの好調ぶりは際立つ。その要因は何だろうか。
※出典: GEM Partners「動画配信(VOD)市場5年間予測(2025-2029年)レポート」
「まず同業に対する差別化戦略という部分では、コンテンツの数に優位性があると考えています。NetflixやAmazon Prime Videoなどはオリジナルコンテンツが評価されていますが、当社には競合では見られない作品の数に強みがあるので、外資と共存することが可能なのです。2025年8月期の上半期について言うと、国内独占であるイングランドのプレミアリーグ(1部)などを配信する『サッカーパック』の新設が新規ユーザーの獲得、ひいては大幅な増収に貢献しています。
そしてもう1つ大きなポイントになったのは、2023年にTBS、テレビ東京、WOWOWらの合同動画配信サービスとして運営されていたParaviを統合したことです」
それまでU-NEXTでは比較的ドラマが弱かった、と西本氏は語る。国内ドラマは在京キー局が運営する動画配信サービスに流れることが多く、U-NEXTのような放送局と資本関係のない、独立資本の動画配信サービスがキラー級のコンテンツを獲得することは容易ではなかった。そこにParaviの統合が大きなターニングポイントとなり、TBSとテレビ東京で放送中のドラマをU-NEXTで提供できるようになった。奇しくもその直後に、TBS制作のドラマ『VIVANT』が大ヒットとなり、U-NEXTへの新規ユーザー導入に非常に強いドライブをかけることになったのだという。
「U-NEXTの特異性という点では、以前からある独自のポイントをうまく活用できているということもあると思います。ポイントはユーザーの継続率向上につながっています。
具体的には、U-NEXTのポイントは、動画のほかに提供している電子書籍の購読にも使っていただくことができるため、ポイントをコミックの購入に使われるユーザーは1巻、2巻、3巻と継続的に購入されることが多いのです。追加料金なく毎月1200円分の電子書籍やコミックを購入できるので、エンタメファンの方ほどポイントのメリットを感じていただき、結果、U-NEXTの契約期間が長くなる、この効果は大きいと考えています。さらにもう1点、ポイントのさらなる大きな役割として、フレッシュな映画コンテンツを確保する武器となっています」
実は一般的に、映画の配信権を保有している権利者は、劇場公開から間もない「鮮度の高い」映画をサブスクリプション型の動画配信サービスに出すことには消極的だという。早い話、権利者としては、自社のキラーコンテンツである最新映画を“旧作”と一緒くたに、見放題で並べられるのは好ましくないわけだ。それは製作費の回収という意味合いでも、より収益化を見込める配信形式が求められる。
「そこで、当社ではポイントを使った『ペイパービュー(Pay Per View/都度課金)』という提供形態をとれることが効いてきます。フレッシュな作品をそれだけのバリューがあるコンテンツとしてお客様に訴求することができますし、ユーザーに購入していただいた収益をシェアするという形で、権利者さんには具体的なメリットをご提供できます。このように、鮮度が高いコンテンツをラインナップに取り揃えられることが、サブスクリプションのみのサービスとの差別化やユーザーの満足度向上を通して解約率の低減につながっていて、これはポイントという仕組みがあるからこそできていることだと考えています」
こうしたU-NEXTならではの特徴の数々が、U-NEXT HDのコンテンツ配信セグメントにおける加入者、売上等の好調な推移に貢献している。前年同期比で18%増収、32%営業利益増益という破竹の勢いを示す現状は目を見張るが、その反面、年を追うごとに成長速度を継続するハードルは高くなっていきそうにも感じられる。
「少なくとも、今後3~5年程度の期間では定額制動画配信サービスの市場は拡大を続けると予測しています。この事業環境下で、安定的な成長を実現するための施策を引き続き打っていきます。動画配信サービスは、基本的にはユーザー数の増加がそのまま収益増に直結するものです。実際、上半期に課金ユーザーが9%増加し、ARR(年間経常収益)は10%の増加となっています。今後も追い風を利用して、収益の堅調増加を実現していきたいと考えています」
コンテンツ配信のU-NEXTについて、西本氏は今後の安定成長に自信を見せる。では、それ以外のセグメントについての見通しはどうだろうか。
「コンテンツ配信がB to C(対消費者ビジネス)であるのに対して、これ以外の店舗・施設ソリューション、通信・エネルギー、金融・不動産・グローバルの3セグメントはB to B(企業間ビジネス)にあたります。この3セグメントは個々独立で動かすのではなく、シナジー効果を発揮して着実に成長できていると考えています」
店舗・施設ソリューションのうち、店舗向けは創業以来の音楽配信サービスに加えて、新規オープン店舗に対してキャッシュレスの機材やPOSレジ、wi-fiなどの店舗運営ソリューションをクロスセルするビジネス。施設向けは、ビジネスホテルや総合病院のフロントに並んでいる自動精算機の製造販売で、国内トップシェアを誇っている。このセグメントは特に利益率が高く、同社のドル箱というべき事業分野となっている。
「店舗ビジネスの成長性について言うと、当社の推計では、日本国内のあらゆる店舗を合計すると、約400万店舗が存在しています。この中で、当社の既存顧客がおよそ83万店舗です。つまり、それ以外の300万超の店舗が当社の想定顧客、つまり成長余地と考えられるわけです。とはいえ、実際には300万超の店舗の多くは、当社以外のサービスを利用されています。ということは、そこに切り替え営業をかけていくのは効率が悪い。サービスを乗り換えれば店舗内のオペレーションも変わりますので、スイッチングのハードルは非常に高いのです。
そこで当社は、常に起こっている店舗の新陳代謝のタイミングを逃さず、商機を捉えることに注力しています。実は毎年、400万店舗のおよそ2%にあたる約7万店が閉店となり、同時に後継テナントとして約7万店が新規オープンしているんです。この新店のオーナー様はゼロベースで導入するサービスを検討されるので、ここに当社の幅広いサービスをクロスセルする大きな可能性があります」
この7万店に対して同業に先んじてコンタクトを取る手段として、同社の全国展開で活躍する約2000名の営業マンと約1000名のフィールドエンジニアが、日々のサービス提供活動の中で、目視で新規オープンする店舗を把握しているという。これに加えて、不動産仲介会社や内装業者、税理士法人など、全国で約1万8000社のパートナーネットワークを構築し、情報収集に努めている。新規に開業するオーナーがパートナーと接触した際に情報を連携してもらい、同社が営業をかけてサービス導入に至った暁には、既定の手数料が支払われる。このような地道な営業活動を積み上げ、B to B全体として成長軌道を継続していきたいと西本氏は語る。
同社のB to B事業の中で、金融・不動産・グローバルは昨年に新しくセグメントとして設けられたもの。その目論見と成長性についてはどう考えているのだろうか。
「こちらはまだ収益規模は当グループの中では小さいのですが、セグメントとして独立させることで、今後注力して育成していくという旗を立てた形です。そもそも当社のB to Bサービスは、業務の効率化や生産性向上に資するソリューションが主力となっています。ただ、少し引いた視点で捉えると、オーナー様が店舗運営、経営をされるにあたって、まずはテナントとして入る箱、つまり不動産の確保が必要です。同時に開業資金という部分で、金融との接点も絶対的に必要になってきます。そこで、当社が持っている盤石の顧客基盤に対して、店舗運営ソリューションにとどまらず、川上で必要になる不動産と金融のサービスも併せてご提供していくために、新規セグメントを設定しました。
グローバルに関しては訪日観光客、インバウンド需要に対するビジネスを構築していく取り組みです。将来的には訪日観光客6000万人を目指すという国の方針が出ていますから、その巨大なインバウンド需要に当社のビジネスをいかに絡めていくか、という観点でビジネスプランを練っています」
かつてのソニーやセブン&アイHDなど、一般の事業会社が金融に進出して成功をおさめた例は多い。既存顧客とインフラがあり、そこに求められる金融サービスを提供できるという点ではU-NEXT HDも同様の立場で、金融・不動産・グローバル事業の展望は非常に明るいといえそうだ。
最後に、U-NEXT HD全般における、今後の成長戦略を西本氏に聞いた。
「当社は年間で連結営業利益の成長率10%を目標としています。既存の4セグメントに関しては事業のモメンタムは比較的順調で、成長路線に乗っていると認識しています。ただ、全体でみると利益の絶対額が増えてきているので、既存4セグメントのオーガニックな(自然な)成長だけで今後も10%成長を継続していくには、ハードルが年々高くなってきつつあることも同時に認識しています。この部分を突破するためには、M&Aを活用して非連続的な成長を実現する段階に来ていると考えています。
今後2~3年のスパンで言うと、米国のトランプ大統領が相互関税なりドル安誘導なりの発言を多くしていることによって、為替が円高基調になっていますよね。これは当社の業績に対して、ポジティブに働くと考えています。当社はほぼ国内ビジネス専業になっているので、収入はほとんど円建てです。その一方で、コンテンツ調達の一部はドル建てになっており、この部分に円高が効くと業績にはプラスです。日本経済にとっては円安が望ましい部分も多くあるとは思いますが、当社の業績に限って言えば追い風になるという点は、広くご承知いただきたいと思っています」
動画配信という成長分野において、同業との差別化を幾重にも重ねることと、店舗運営の伴走者という古くからの役割を幾重にも拡張し、商機を絞り込んで効率的に得点を重ねていくこと。このような全方位的な戦略の周到さこそが、U-NEXT HD全体を貫く勝利の方程式なのだろう。
と、ビジネスジャーナルが報じた。
編集者:いまトピ編集部