人気の秘密『しゃぶ葉』肉質の差は歴然

すかいらーくホールディングス(HD)が全国に約300店を展開する「しゃぶ葉」は、店舗数ベースではしゃぶしゃぶチェーン業界1位。かつては1位だった「しゃぶしゃぶ温野菜」(217店舗/2024年9月時点)は近年、店舗数が減少して2位、「木曽路」(126店舗/同)が3位となっている。
しゃぶ葉の人気の秘密は、しゃぶしゃぶをはじめバラエティ豊かな料理を低価格で味わえる食べ放題コースにある。たとえば平日ランチは「牛&豚 しゃぶしゃぶ食べ放題コース」(2089円/税込/店舗によって異なる)は牛肉・豚肩ロース・豚バラ肉・鶏肉のしゃぶしゃぶに加え、前述のサイドメニューも充実。このほか、1000円台のコースとして「豚 しゃぶしゃぶ食べ放題コース」(1759円)、「豚バラ しゃぶしゃぶ食べ放題コース」(1539円)を提供。このほか「国産牛 しゃぶしゃぶ食べ放題コース」(3189円)などワンランク上のコースもあり、こちらは国産牛・赤城山麓豚・牛みすじ・小籠包・牛肉・豚肩ロース・豚バラ肉・鶏肉などが食べられる。平日は16時までなら時間無制限だという点も特徴だ。
ちなみに前述のとおり、中高生の利用客が増えているという言われ方が目立つが、すかいらーくHDは「ご来店いただいているお客様層の分析では、中高生のお客様に限らず、全世代のお客様が増加傾向にございます」と説明する。
しゃぶ葉は外食チェーンとして、どのような点が優れているか。前出・稲田氏は次のように説明する。
「肉の質と種類により、コースは平日ディナーで2000~4500円程度の間で細かく分かれています。ただし高額なコースは限定メニューとなっており、レギュラーメニューの最高額は3500円程度となります。初回訪問時、私は『北海道産牛肩ロースのコース』(4289円)を注文しましたが、肉質の良さは驚くべきものでした。黒毛和牛でこそありませんでしたが、おそらくF1(交雑)牛でしょう。サシの入り方こそやや弱いものの、味わいや風味は限りなく和牛に近いものでした。ビュッフェ業態におけるコストパフォーマンスを語る上で『元が取れるかどうか』を云々するのは、そもそもナンセンスではありますが、このコースの場合、ややもすると本当に『元が取れて』しまう可能性すらあります。F1牛は黒毛和牛よりは安いとはいえ、上質なものになると、小売りではそれほど大きな価格差があるわけではありません。
後日、改めてほぼ全種類の肉を食べてみました。コースごとの細かい価格差は選べる肉質の差をそのまま反映しており、当然ですが高ければ高いほど上質。その差は歴然としています。ただし豚肉にせよ牛肉にせよ、最低額のものであっても、日常的なおいしさとしては十分以上のものがあるのも確かです。最もコストパフォーマンスが高いのは、国産牛が選べる高額コース、もしくは反対に豚バラのみの最低額コースだと感じました。もっともこれは、この店にどういうスタイルを求めるかの話でもあり、人それぞれとしか言いようがないところでもありますが」
飲食店経営者の視点からみて、なぜ「しゃぶ葉」は人気が出ていると考えられるか。
「先行ブランドである『しゃぶ菜』や競合ブランドである『しゃぶしゃぶ温野菜』にも共通するポイントですが、店名そのものに『野菜』を想起させるワードが入ることは実に象徴的です。手軽に多種の野菜をたっぷり取れる料理としてのしゃぶしゃぶを求めて多くの人々が集まるための仕掛けが随所に施されています。豚バラのみのコースであっても、野菜のほうがむしろ主役と捉えれば、満足度は跳ね上がります。
ただしそうなると、ひとつ問題があります。そのようなしゃぶしゃぶであれば、家でも手間なく簡単に調理できてしまい、なんなら安いだけでなく、おいしさも家庭のほうが簡単に上回ります。しかし、それを解消するのが豊富な選択肢。6種類用意されたなかから最大4種まで選択できる鍋つゆに加え、タレや薬味を組み合わせれば、バリエーションは無限ともいえます。これはさすがに家ではなかなか真似できません。味自体は正直、いかにもファミレスチェーンらしく、わかりやすいおいしさを追求したものですが、白だしやポン酢、胡麻ダレといったベーシックなアイテムに関しては、高級な専門店にやや寄せたような抑制の利いた味になっており、上質の肉を求めて高額コースを選択するようなグルメ層にも不満を与えないような仕組みになっていると感じました。
何より、ここでは『自分の意思で味を選択して組み合わせる』というある種のアトラクション性が最重要です。わたあめやワッフル、プリンなどの『セルフで作るデザート』も、子どもたちのハートをわし掴みにしているようです。しゃぶしゃぶと言いつつ主役は肉よりも野菜であり、しゃぶしゃぶ店と言いつつその本質は『体験型アトラクションレストラン』。これが『しゃぶ葉』の人気の秘密なのではないでしょうか。また、そのことは、食べ放題でありつつ、原価の高い肉ばかりが無闇に食べられてしまうことも自然にある程度防ぎ、経営面でもメリットが大きくなっているのではないかと思われます」(稲田氏)
では、客として「しゃぶ葉」の魅力を最大限に堪能する方法とは何か。
「ランチタイムであれば1500円台から利用できますから、午後からの仕事に差し支えない、極めてヘルシーなランチとして使い勝手が良さそうです。家族、特に三世代で集まるような場であれば、まさにそれが『しゃぶ葉』の真骨頂でしょう。ひとつ鍋を囲みつつ、実はそれぞれが全く違う好みの味を楽しんでいるというのは、少し不思議で幸せな光景です。デザートコーナーは子どもたちにとっても楽しい思い出となることでしょう。
そして見逃してはならないのは、純粋に専門店としてのポテンシャルの高さと使い勝手の良さです。しゃぶしゃぶ・すき焼きの専門店は、普通なら高級店であることがほとんどです。値が張るのみならず、予約前提であったり一人で利用しにくかったりといった難点もあります。それが『しゃぶ葉』の高額コースであれば、同等のクオリティとまではいわないまでも、それにある程度近いものを格安といっていい価格で気軽に楽しむことができます。このような店は、実はたいへん貴重です。わざわざ遠くから足を延ばすほどではないかもしれませんが、生活圏内にあれば、日々の暮らしがグッと豊かになりそうです。
その観点であえて要望があるとするならば、昆布だしのみの鍋つゆ、甘さを抑えた割り下や胡麻ダレ、うま味控えめのポン酢など、『高級店仕様』のアイテムも欲しい。有料でちょっとした一品料理も。しかしそれが『しゃぶ葉』の本分でないのは私もよくわかっていますから、もちろんそんな馬鹿げた要望は無視してください。そこは『豊富な選択肢』を利用して、自力で何とか工夫しますので! そしてそんな工夫が楽しめることも当然『しゃぶ葉』の楽しさであり、高級店並みのポテンシャルを秘めていることの証ですから……」(稲田氏)
とのことだとBusiness Journalは報じている。
編集者:いまトピ編集部