大ハズレ『上映終了を決定』リスクを取らないセコい姿勢「すべて中途半端に」

今年の映画界は、ホラーが熱い。邦画は『見える子ちゃん』(6月6日)や『ドールハウス』(6月13日)、洋画では『サブスタンス』(5月16日)など傑作が立て続けに公開され、もはやホラーブームともいえる一年。そうしたなか、秋の期待作として公開されたのが『火喰鳥を、喰う』(10月3日)だが、鳴り物入りの宣伝とは裏腹に反響は芳しくない。「ワースト候補」という声もあるほどで、月内で上映を終了する映画館も出てきている。
〈第40回横溝正史ミステリ&ホラー大賞〉で大賞を受賞した同名小説の実写映画化ともあり、注目を集めていた本作。主演は、興業収入45.4億円を記録したヒット映画『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』(2023)で「第47回日本アカデミー賞」優秀主演男優賞を受賞し、ORICON NEWS「2024年上半期ブレイク俳優ランキング」では3位にランクインするなど、勢いに乗る俳優・水上恒司。共演には元乃木坂46の山下美月やと、それぞれ多くのファンを抱える旬の若手を固めた。
全国300館を超える大規模スタートで幕を切ったが、興収は公開3日間で1億4136万円とかなり微妙。初週こそ動員ランキング6位につけたものの、2週目には早くもトップ10圏外に沈んだ挙げ句、大手シネコンでは3週(10月30日まで)で上映終了を決定するところも……。
物語はミステリ&ホラー大賞らしく、信州で暮らす久喜雄司(水上恒司)と夕里子(山下美月)のもとへ、戦死した先祖の日記が届いたことを境に、不可解な出来事が起こり始めるという内容。仕組まれた罠か、それとも怪異か。謎が謎を呼び、複雑に展開が入り乱れながら斬新なクライマックスを迎えることで、原作は評価された。2020年12月に発売された小説は今年3月に映画化が発表されて以降、改めて大々的に並べる書店が続出したほか、Amazonでも角川ホラー文庫の売れ筋ランキングで1位~10位以内と上位をキープしている。
そんな話題作、さらに実写化にあたっては、「起用すれば動員間違いなし」といわれるSnow Manから宮舘という強いカードを切ったが、原作ファンからも宮舘ファンからも実写版には首を傾げる声ばかりだ。
4月1日、宮舘の起用発表時には、映画単独初出演、かつ物語のカギを握る役どころというポイントに、宮舘ファンたちの間でSNSもおおいに賑わった。しかし実際のレビューには〈舘さまの演技はよかったけど、話が難解すぎ〉〈内容が???で私の頭では理解できなかったけど舘様のサイコパス好き〉と、宮舘はともかく“物語についていけない”という声が溢れる。
一方で映画ファンからも、全体のストーリーラインが散らかっているという指摘が続出した。〈説明不足が目立つし、(中略)ブン投げエンドも納得いかない〉〈鑑賞後に大きなハテナが残る作品〉など、超展開に混乱した人が多いことがうかがえ、〈原作読んでてもなかなか難しい〉といった感想があがってしまうほどだ。
いったいなぜ、ここまで酷評される事態になっているのか。忖度ナシの映画評論家・前田有一氏が、観客が抱いた“大ハズレ感”の正体を解説する。
前田氏いわく、本作の点数は「40点」。「正直、あまり面白いものではなかった」とキッパリ言い切ったうえで、観客の抱いた“何がなんだかわからない”というモヤりの原因について、「『原作の面白さ』と『映画のコンセプト』がズレた」ことにあると指摘。結果、「ストーリー構成も演出も映像表現も、すべて中途半端になった」という。
では、何が「中途半端」になったのか。
「原作小説が評価を受けたポイントは、“ジャンルの裏切り”でした。一見、本格的なミステリかと思いきや、超常現象を活かしたオカルトホラーに着地する。その斬新さが賛否を呼んだことも含めて、ヒットに繋がったわけです。
さて、それが映画版ではどう表現されるのか──と期待されていたのですが、蓋を開けてみればミステリファンもホラーファンも切り捨てて、恋愛要素が強められ、むしろミステリやホラーに特段興味ないような層を狙ったことがわかる作り。かといってミステリ&ホラー要素を捨てきれず、薄っぺらい演出に終始する。結果的にすべてが中途半端な作品に仕上がってしまった」(前田氏、以下同)
映画版の“中途半端さ”を象徴するものとして、前田氏は雑なキービジュアル(ポスター)を指摘する。
「青い空を背景に水上さんと山下さん、宮舘さんという3人が三角に配置されていて、あたかも若い男女の三角関係が主軸のストーリーという雰囲気です。それでいてキャッチコピーは〈この恐怖、美味ナリ〉。言葉でホラー感を出したかったのでしょうけど、イメージからして、何がどう“恐怖”なのかが全然伝わらない」
現役アイドルである宮舘が起用されたように、長らくアイドル×Jホラーは、邦画業界で“鉄板”の組み合わせではある。1977年、大林宣彦監督が映画『HOUSE(ハウス)』で池上季実子や大場久美子らを絶叫させたことを起点として、Jホラーはアイドルが新境地に飛び出す登竜門となってきた。ホラー映画は少ない予算で制作できることにくわえて、アイドル側にとっても「映画に出演した」というキャリアになる。また、ファンにとっても「普段見られないアイドルの表情が見られる」というメリットがある。三方良しの施策なのだ。
そして今、単独出演はもちろん、AKB48の初期人気メンバーが勢揃いした『伝染歌』(2007)や、ももいろクローバー(現・ももいろクローバーZ)メンバー全員が映画初主演を果たした『シロメ』(2013)など、複数人での出演も珍しくない。近年では、GENERATIONS from EXILE TRIBE全員が主演した『ミンナのウタ』(2023)が映画レビューサイト「Filmarks」の初日満足度ランキングで1位と、映画ファンからの評価も上々だ。
「アイドル×Jホラーは“安牌”なんですよね。低予算で制作し、アイドル自身のファンを動員数として予測できれば、めちゃくちゃ儲からなくても、大外れもしない。特に今はホラー界に活気があり、このブームに乗れば外れもしないという目論見が立てられる。そこへSTARTO社所属の中でも最も勢いのあるSnow Manの宮舘さんをキャスティング。メガヒットを狙うよりも、大コケ、つまり赤字にならない程度を目指し、着実に数字を積み重ねられる布陣で臨んだのがミエミエです」
“赤字にならない程度”とは、どういう計算なのか。
「制作費が2億円ぐらいだとして、興収6~7億円はいってほしい。10億いけば御の字です。本作の場合、ホラーというジャンルの強さで3~4億、俳優の固定ファンで3億ぐらいと見積もり、合計6億は手堅いと踏んだのでしょう。それぐらい取れれば損はしないという計算です。ところが、そうしたリスクを取らないセコい姿勢ではいいものが作れず、結局どのファンにも刺さらなかった」
本作が“とっ散らかった”印象になった根本的な原因として、前田氏は「“怖さの種類”が変えられてしまったこと」だという。どういうことか。
「おぞましい展開、ジメジメとした怖さが際立つ原作と違って、映画版では人間関係の愛憎が前面に押し出されました。演出もケレン味だけを意識した安っぽいものが連続し、不気味さが全然足りない。構成も演出もうまくできていないから、話が複雑なうえにとっ散らかっていて、回収もされない。肝心の謎の答えが明かされても全くスッキリしない」
原作になく、映画版で新たに盛り込まれたラストは唐突なパラレルワールド要素を含み、SNSで〈ホラー版『君の名は。』みたい〉などと言われる始末。ただし『君の名は。』は物語として成立しているが、本作ではそれまでの話とつながらないため、〈こんな終わり方でいいの?〉と、後味の悪さだけを訴える声が目立つ、とサイゾーオンラインが報じた。
編集者:いまトピ編集部

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