「男性は家計を支える主な稼ぎ手です。彼は家の外に出て働く。妻である女性は主婦で、家の世話をする。家庭を守る」

【映像】大バズりしている“トラッドワイフ”主張の動画

 男女平等。ジェンダーフリー。その最前線を走るアメリカで、女性がこのように語る動画が大バズリしている。投稿したのは専業主婦のエスティ・ウィリアムズさん。自身の暮らしを紹介しながら主張しているのは“トラッドワイフ(Traditional Wife)”、直訳すると伝統的な妻。1950年代に浸透していた女性像で、家事にいそしみ夫に尽くす価値観を持った女性のことだ。

 日本のX上でも「専業主婦が許されない風潮やめてほしい」「共働きせざるを得ない世の中になっている」といった声はあがる。アメリカで巻き起こっているトラッドワイフ旋風から、日本の専業主婦、男女平等とは何なのかを『ABEMA Prime』で考えた。

■トラッドワイフとは

 作家の橋本琴絵氏は「“女性も働きなさい”“社会進出しましょう”という風潮に対するカウンターとして、トラッドワイフが出てきたとみている。日本ではある種、専業主婦をナチュラルにやっているが、アメリカでは政治的に利用されているのに違和感がある」と主張する。

 動画を投稿したエスティさんは、自分が選んだ選択で「全員が実践する必要はない」としている。港区議会議員の新藤かな氏は「選択して専業主婦になる権利は、基本的に誰しもが認めていて、彼女も他の人を排除しているわけではない。“保守的な女性像を賛美することで、女性の社会進出を妨げる”という批判が一部のフェミニストから出ているが、逆にそれがジェンダーロール、多様性を押し付けているように感じる」との考えを示す。

 トラッドワイフは、2016年当時のトランプ大統領の「Make America Great Again」になぞらえて、米ネットコミュニティが「Make TradWives Great Again」と流用。仏ルモンド紙は「以後『反MeToo』『反フェミニズム』などで使われるように」(1月20日付)、米ガーディアン紙は「もともとネット上の「極右サブカル」だったが、もはや西側政治の主流に入り込みつつあると懸念も」(2023年5月31日付)としている。

 橋本氏は、トランプ前大統領に起因するような“分断”の構図に似ていると感じているという。「アメリカは保守とリベラルが真っ二つに分かれ、“こっちが正しいんだ”という対立は歴史上続いてきた。今回もそういう流れではないか」。

■「働かないと子どもを養っていけない、生活できない状態が問題」 日本のあり方は

 労働政策研究・研修機構によると、日本の専業主婦世帯は1980年の1114万世帯から、2023年には517万世帯に減少。一方、共働き世帯は1980年の614万世帯から、2023年には1278万世帯に増えている。

 共働き世帯増加の背景について、橋本氏は「“働きたいから”というよりも、働かないと子どもを養っていけない、生活できない状態になっているからだ。少子化も進み、移民を受け入れる必要性が言われる中で、女性を働かせよう、社会進出させなければいけないという国の方針になっている」と問題視する。

 新藤氏は「日本の伝統的な専業主婦の時代は、男性が外で稼ぎ、女性は子育てをして家を守るという分業ができていた。社会で戦わなくてもよく、家で守られていた存在だったことに憧れる女性がいるのは自然なことだと思う」との見解を示す一方で、「女性が戦って勝ち得てきた権利も当然あるし、フェミニズム運動をリスペクトしないわけではない。ただ、専業主婦がよしとされる中で女性の全ての権利が否定されてきたかというと、必ずしもそうではないと思う」とした。

 その上で、理想的な社会について、「画一的な多様性を押し付けられない社会。男性だろうと女性であろうと、“何かをしたい”“チャレンジしたい”というときに、機会が平等に与えられるのはすばらしいことだ。一方で、女性だからといって過度に下駄を履かされたり、単純に男性議員と女性議員の数を同じにしようとしたりするのはナンセンスだと思う」と投げかける。

 橋本氏は「男女で性差はあるもの。体力は違うし、そもそも不平等だ。そこで平等にすべきは機会で、人数合わせの表面的な問題ではない。周りの人が女性に対して、“働け”“家に入れ”などどうこう言わないこと。その人たちが選ぶものを尊重する社会を目指すべきだと思う」と述べた。

 公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」代表の田中紀子氏は「私が子育てしていた頃は、“子どもを預けるのはかわいそう”という風潮や、三歳児神話もすごくあった。しかし、今はシングルマザーも多くいる時代で、伝統的な妻と言われてもどうしたらいいの?と困る人はいると思う。一方で働いている女性に対して文句を言う人もいるので、自分が誇りを持って選択して生きていればいいのではないか。批判を一切なくすのは難しい」との見方を示した。(『ABEMA Prime』より