世界初のインターンレスラーの誕生が注目されている。学生プロレスで活躍する現役の大学生がなぜ、インターンとしてプロのリングに上がることになったのか。ニュース番組『ABEMA Morning』では、そのデビュー戦に密着した。

【映像】インターンレスラー・鈴木選手が大技を決める瞬間

 先月17日、東京・後楽園ホールで開催されたDDTプロレスリング旗揚げ27周年興行。そのオープニングマッチで行われたのは世界初のインターンレスラー、鈴木翼さんのデビュー戦。

 鈴木さんは学生プロレス団体、一橋大学世界プロレスリング同盟HWWA(エイチ・ダブリュー・ダブリュー・エー)で、「“母の子”マザコン・キッド」のリングネームで活躍する、現役の大学4年生だ。

 中学と高校では、陸上の中距離走者として活躍し、全国ランキング1位にまでなった鈴木さん。なぜ陸上を辞めて学生プロレスをやろうと思ったのか。

「事前のランキングは1番まで行ったが、全国大会は負けて悔しかった。どれだけ頑張っても、その夢がかなわなくて、自分の運動能力、身体能力でも十分戦えるスポーツを模索した結果、好きだったプロレスに行きついた」

 この日、鈴木さんが行っていたのは、陸上のジャンプトレーニングに6kgのダンベルを両手に持つという独自の練習法。1.5mの壁も…。

 その身体能力を生かした得意技は、ドロップキックとブロンコバスター。そして、プロでも出来る人が限られる大技、フェニックス・スプラッシュ。その華麗な技を武器に、2本のチャンピオンベルトを奪取。学生プロレスで頂点に立つ事しか考えていなかった鈴木さんに転機が訪れたのは去年のことだった。

「後楽園ホールの歓声がすごく気持ちよくて、プロでやってみたいと思った」

 2023年1月、DDTプロレスリングの興行で行われた、「ノーギャランブル」。名乗りを上げたアマチュアのレスラーと、プロのレスラーが入り乱れて闘うこのリングに、鈴木さんが上がった。

 この試合に参戦していた株式会社CyberFightの高木三四郎社長は「この子はモノが違う。体つきもすごい。こういう人がDDTに来てくれたら面白い。プロレスも学生が参加できる場があれば良いと思っていた。プロレスラーになりたい人もそんなに多くない時代なので、こういう形で間口を広げるのが良いことかなって」

 そして、今年1月に行われたDDT後楽園大会で、インターンレスラーとしてデビューすることが発表された。

 鈴木さんは「このたび世界初のインターンレスラーという形でデビューさせていただくことになりました。1日でも早くこのDDTのファンの皆様に愛されるような選手になれるように頑張っていきます」と意気込みを伝えた。

 インターンシップとして、DDTプロレスリングで継続的に試合に出場し、一定期間の活動後、正式に入団するのかどうか団体との協議の上、決定する。

 華々しいプロのリングに立つ事が決まった鈴木さんは、現在、アパートで一人暮らしをしている。

「一人暮らしは寂しいですね。友達もあまりいないんで、学食とかもいつも一人ですけど、しょうがないです。 娯楽が温泉と一人で飲みに行くしかないので」

 3年前、静岡から1人で上京。ゲームやアイドルにも興味はなく、部屋の中も、物が少なめだ。鈴木さんは「学生プロレスには友達いるんですけど、大学にはいない」といい、周りからは「シャイと言われる。臆病者というか、小心者」と話す。

 この日の晩御飯は、卵5つを使った目玉焼き。焼いた後にコショウと塩、醤油をかけて出来上がり。鈴木さんは「味は何にも感じない。とりあえず栄養がとれれば」と話し、食後のプロテインはシェイカーを使わず、豪快に飲む。そして、この日も一人で体を鍛えるためにジムへ。週5日は通っているそうだ。

 鈴木さんにとって、プロレスは「自分を表現できる場所。大学生活を過ごしていると、自分を表現できる場所が無くて、学生プロレスがあったからこそ、たくさんの思い出が出来たのでかけがえのない存在っていうか、自分にとってなくてはならないもの」。

 この日行われたのは、鈴木さんの壮行試合が行われる予定の学生プロレスの記念興行。しかし、鈴木さんの姿はリングサイドにあった。

「当初、メインイベントでベルトをかけてやる予定だったが、自分の怪我で今回はできない」

 プロデビューまで1カ月を切ったタイミングで肩甲骨にケガをしてしまった。

「ケガの方はあんまりよくないかもしれないが、デビュー戦は3週間後なので急ピッチで治していく」

 そして、いよいよデビュー戦。鈴木さんは「緊張しているが、やれることはやってきたつもりなので、最後まで頑張りたい」。

 けがの状態は上向き、 試合にはなんとか間に合ったようだ。デビュー戦に向けリングを設営する鈴木さん。その顔には緊張がうかがえる。先輩レスラーの飯野さんに「顔色悪すぎだよ」 と心配されるほど。

「圧倒される。このレベルでやったことないので、すごく緊張します」

 デビュー戦。相手の高尾蒼馬選手からの逆エビ固めを耐え、ロープに逃げる鈴木さん。押され気味だが、お客さんからの歓声に応えるかのように、高尾選手にフェニックス・スプラッシュをするが、不発。結果は敗北となってしまった。

 試合を終えた鈴木さんは、プロとアマの違いについて「別競技というか、ソフトボールと野球ぐらい違う。まずは心の部分を強くして、結果的に良いレスラーに成長していきたいと思っている」と語る。

 試合を見た高木社長は「相当緊張してたみたいで、ミスもあったが即戦力、見栄えもよかったし、この世界でやってやろうという気概も感じられた。そういう意味では100点満点のデビュー戦だった。鈴木君は是非うちに入ってほしい。でもインターン期間を終えて本人との話し合いだと思うので 僕らとしては来てほしいが、あとは彼がやってみてどう思うかだ。でも個人的には来てほしい」と高評価だ。

 休憩時間にはファンとの交流も行った鈴木さんの顔には、ようやく笑顔が戻り始めていた。

 試合を観たファンからは「鈴木選手は学園祭に出演しているのを見て、それきっかけでデビューすると聞いたので、ちょっと気になって観てみました。私は鈴木選手きっかけでプロレスを見るようになったので、これからもどんどん観て行こうと思います」。

 鈴木さんは、ファンの声援について「聞こえました。やっぱりうれしかったです。すごく緊張したし、上手くいかなかった部分もあるけど楽しかった」。

 世界初のインターンレスラーとしてデビューした鈴木さん。大学卒業後もDDTでプロレスを続けるのか。

 進路を決めるインターン期間は、まだ始まったばかり。

「団体の雰囲気、選手の雰囲気が良くて、こんなに素敵な団体があるんだと思った。試合もユニークですごい団体だと思って、ここでやりたいと強く思った」

(『ABEMA Morning』より)