「いまのGoogleマップの状態が続けば、本当の表現の自由は危うくなる。やむを得ず今回、集団訴訟することにした」(原告の医師)

【映像】口コミの悪評…削除対応の成否わけるポイントは?

 18日、全国の医師らおよそ60人が「Googleマップ」の口コミ欄に書き込まれた、事実と異なる悪評などが放置され営業権を侵害されたとして、Google本社に対して、合わせて140万円余りの損害賠償を求めて訴えを起こした。

 「医療機関に関しては守秘義務があるので、色々言われても患者については何も言えない。そうすると書き込む側は匿名ではなんでも言えてしまう。それに対してこちらは反論できない状態で、一方的なサンドバック状態になる」(原告の医師)

 Googleマップには、その場所の住所などに加え、星の数による5段階評価と口コミが投稿できるシステムとなっており、初めて行く場所を調べる際に重宝されてきた。

 しかし━━。

 「名前を勝手に変えられたり、場所を太平洋の真ん中に移動されたお店や勝手に閉業にされたり、明確な営業妨害であって、表現の自由とかいう次元の話ではない」(原告の医師)

 勝手に事実と異なる内容に編集されてしまうケースも。弁護団が集計した、原告の医師らへのアンケート調査には「受診歴のない人物から複数アカウントを使い分けて中傷を書き込まれた」「職員の顔写真が盗撮され中傷の言葉と共に発信された」などの回答も。

 Googleマップは、口コミなどを投稿するとポイントが獲得でき、一定のポイントを超えると、特典が得られるようになっている。

 「『IQ70以下の低脳女』『メス豚は相手にするな』などと書かれた。完全な誹謗中傷だ。これを報告しても消えない。書き込んだ人はかなり高いレベルの勲章をもらっていた。これをもらうと、クラウド上のハードディスクをたくさん使わせてもらえたりするので、実態としてお金をもらっているようなもの。非常に悪質だ。こういうのがあるから削除ビジネスがある。私のところにも郵送されて資料と名刺までご丁寧についてきた。“サクラの良い口コミを書く”という営業も来た」(原告の医師)

 口コミに関する相談を多く受けるという岡井裕夢弁護士のもとには、医療関係者のみならず、飲食店からも様々な相談が寄せられるという。

 「焼肉店には『肉が薄っぺらい』といったものや『スタッフが全く親切に対応を行っていない』という具体的な発言内容、『こんな対応されました。もう二度と行きたくありません』などの口コミもあった。他のお客さんがそれを見たら、なかなか足を踏み入れたくならないだろう」(岡井弁護士)

 批判とも取れる口コミでも、正当な内容の投稿も少なからず存在する。しかし、中には事実でない投稿で名誉毀損罪や業務妨害罪にあたる可能性のある悪質なものもあり、岡井弁護士は削除対応をすることもあるという。

 しかし、投稿の内容が事実でないことを証明できるものは削除対応しやすい一方で、例えば、飲食店の場合、「料理が美味しくない」といった口コミは“個人の評価”に過ぎず、対応が難しくなるという。

 「投稿内容によって、その飲食店の社会的評価が下がっているか、それが『事実摘示』(事実を示す)なのか『評価』なのか、などがポイントになっている。どちらかというと事実摘示の投稿の方が、事実ではないと明らかにすることで消せる」(岡井弁護士)

 プラットフォーム側に申請しても削除に応じない場合、裁判所に削除の仮処分を申し立てる、もしくは訴訟を起こすといった方法があるが、申し立てや訴訟には費用も時間もかかる。

 今回の集団訴訟について岡井弁護士は「Googleなどの口コミサイト側の方でも、本当にこれが事実なのかどうかの判断は慎重に行っていく必要があるのでは」と見解を示した。

 口コミの投稿者ではなく、サービスを運営するプラットフォーマーの責任を問う訴訟は、異例のことだ。Google側は「不正確な内容や誤解を招く内容を減らすよう努めています。個別の案件に関しては、コメントを差し控えさせていただきます」と発表している。

 今後はさらに口コミを書き込む側、そしてそれを受け取る側にもそれ相応のリテラシーが求められそうだ。

 「匿名の口コミでは、本当のことが書いてあることも、全くの虚偽が書いてあることもある。一般消費者は鵜呑みにしてはならない。口コミのみならず、他の情報を得た上で自身で判断することが重要になる」(岡井弁護士)

■利用者側が偽情報に惑わされない方法 

 総務省「違法・有害情報相談センター」に寄せられた相談のうち、口コミ投稿による相談件数は年々増えており、 2022年度には249件の相談が寄せられている。 

 Googleに対する集団訴訟についてJX通信社 代表取締役の米重克洋氏はプラットフォーム側の対応の必要性を指摘する。

 「『何か悪評や嘘を書き込まれた』という事態に対して、書かれた側が自分の身を守る観点で、あくまで書き込んだ人と書き込まれた人の間の問題として処理され、(Googleなどの)プラットフォーマーはそこから1歩引いて関係ないスタンスでいるように見えた。しかしこれと関連して、最近問題になっている偽広告や災害時のデマ投稿の問題は全てプラットフォマーの取り組み方の問題であり、地続きだと思う。プラットフォーマーはかつてのマスメディアと同じように社会的影響力・発信力が大きくなっているにもかかわらず、口コミなどの嘘の情報をあまり制御できていない。結局書かれた側が事実の立証責任まで負って対応しなければ消えず、たとえ対応しても消せないとなってしまうと、やはり『Google側になんとかしてほしい』と裁判が起きるのは致し方ない」

 Googleマップは、口コミなどを書き込むほどポイントが付与される。これについて米重氏は「投稿してもらうための動機付け、インセンティブを設けることは良いと思うが、書き込ませるのであれば内容について責任を持つ、管理する仕組みを持つ必要がある。アメリカのプラットフォームということもあり、日本ではコンテンツを管理する仕組み=コンテンツモデレーションが不十分であることは以前から指摘されている」と説明。

 「『広告の内容をちゃんと見てない』『偽情報デマに対して内容の確認・削除をしていない』ことによって情報が拡散し、多くの間接的な被害が生まれてしまう。やはり、こういった問題をプラットフォーマー自身が見直せないと、例えば我々の表現の自由に関わるような法律的な規制や取り締まりを、という話になりかねない。Googleやその他のプラットフォーマーも自分事として日本で取り組んでもらわないといけない」

 しかし、いやがらせと正当な批判の区別は難しく、削除申請のハードルが高くなるケースもある。

 これに対し米重氏は「『感想を書いただけだ』と言われてしまうとなかなか難しく、(否定的な投稿は)全て削除されるべきというわけではない。とはいえ、誹謗中傷の被害を受ける方もいるため、まずは法律とは別のガイドラインや枠組みで、プラットフォーマーが自分できちんとルールを決めて、ユーザーに分かるように運用する。人を傷つけることなく正当な感想・評価を述べる、という仕組みを作るべきであり、それをやっていなければ、『(対策を)やっているふり』と言われても仕方ない」との見解を示した。

 利用者側が偽情報に惑わされないためにどう対策すればよいのか?

 米重氏は「プラットフォームの対策が追いついていない以上は、書かれていることがすべて正しいとは限らない、というメディアリテラシー的なものが口コミに対しても求められる。星のつき方が明らかにおかしい、事実ベースの食い違いがある、といった点は注意深く疑ってみなければならない。特に感情的に誹謗中傷してるような内容は鱗呑みにしないことは大前提であり、口コミだけではなく、店舗が発信している情報もしっかりと見て情報を咀嚼していくしかない」とアドバイスした。
(『ABEMAヒルズ』より)