■「スタートアップファクトリー」代表 鈴木おさむ(52)

 放送作家を引退後、ベンチャーファンドという未知の世界に足を踏み入れ、最近はアドレナリンがどんどん出るという。

 スタートアップ企業の支援に乗り出したきっかけは、シェアオフィスを約5年前に立ち上げたこと。自宅にしようと買った段ボール工場を改装したビルにつくった。

 お金はないが、才能ある若手漫画家らが手塚治虫を慕って集まった「トキワ荘」のような空間にしたい――。

 もうけは考えず、面白いスタートアップ企業の若者にオフィスを無料で貸した。自身の事務所もビルの中にある。「いろんな業種の4社がいます。これからはじめるファンドからユニコーン企業(評価額10億ドル超で未上場)を出したい」

 「SMAP×SMAP」など数々のヒット番組を手がけ、放送作家として32年のキャリアを持ちながら、3月末にきっぱり引退した。理由の一つはメディア業界でアドレナリンが出づらくなったと感じていたからだ。

 キャリアが長くなると、経験値の円が大きくなり、新しい仕事をしても起こりうることが「想定内」となり、ワクワクしなくなった。

 「50歳で引退しよう」と2019年に心の中で決めていたが、コロナ禍で先延ばしになった。

 サイバーエージェントの番組を手がけたことで藤田晋社長(51)と出会った。藤田社長が開いた若い起業家との飲み会に参加し、すごい「熱量」に圧倒された。シェアオフィスをつくったのもサイバーエージェントの知人にすすめられたからだ。

 若い起業家と、彼らと同世代のタレントや力士を誘い、シャッフルして飲むと、「さらに熱くなって面白い」。

 20代の起業家と飲んでいる時、「引退したら何をしようかな。何に向いている?」と尋ねたら、「スタートアップ支援を本気を出してなぜ、やらないんですか」と背中を押された。

 引退を選んだ二つ目の理由は退路を断つこと。「そうすれば、僕が本気だと彼らも思うじゃないですか」

 エンゼル投資家としての成功体験もある。昨年3月に大手ファンドから約10億円を資金調達し、話題となったウェブトゥーン(スマホ用のタテ読み漫画)の会社「ソラジマ」も約4年前、鈴木のシェアオフィスに入居し、躍進した。自分の頭脳とアイデア、人脈をフル稼働させ、スタートアップ支援をしていると、50歳を過ぎても現役でいられると思えるようになった。

 投資家集めに奔走するが、経験値の円の外だけに想定外が多い。

 「だからこそ、ワクワクする」