津波をかぶってバラバラになった阿弥陀如来像、高い場所から落ちて腕が外れた増長天像。能登半島地震の被災地で、壊れた仏像を修復するボランティア活動が進んでいる。「地域の宝」を守ろうと、石川県外から専門家が駆けつけている。

 石川県能登町時長にある高野山真言宗・願成寺の広間に、台座や光背が外れた阿弥陀如来像が寝かされていた。江戸時代のものだという。町内の信徒宅の仏壇に安置されていたが、津波で損傷。信徒から相談を受けた中谷光裕住職(52)が預かることになった。

 その寺に、新潟県田上町で「仏像文化財修復工房」を営む松岡誠一さん(52)が訪れたのは24日。台座についた砂をはけで丁寧に取り除き、外れてバラバラになっていた光背を木の粉を混ぜた接着剤で組み立て、元の姿に戻していく。

 見守った中谷住職は「代々大切にされてきた仏像と聞いている。修復してもらうことで、少しでも(信徒たちの)心が元気になるのではないか」と話す。

 寺では本尊の隣に安置していた平安時代の増長天像が落下して腕が外れた。別の寺で傷ついた江戸時代の千手観音像も持ち込まれた。松岡さんは道具を使いながら1体ずつ修復していく。

 松岡さんは、中越沖地震(2007年)や東日本大震災(11年)などでも仏像修復のボランティア活動をしてきたという。「指定文化財はもちろんだが、指定を受けていなくても地域の皆さんから大切にされてきたものはたくさんある。そうした宝を次の世代に伝えるために、お役に立てればという思いです」。中能登町の資料館や能登町、羽咋市の寺でも約20体の応急修理にあたる。

 今回の取り組みは国が文化財防災センターに委託している文化財レスキュー事業の一環。専門家が交通費や日当などの補助を得て、未指定を含めた文化財の救出や応急措置、一時保管などを行う。

 能登町教育委員会の寺口学学芸員(35)によると、町内ではこれまで古文書など5件が同事業で救出された。10件ほどが安全な場所に取り出されるのを待っているという。

 指定文化財については被害状況の調査が進んでいるが、未指定文化財の調査はこれから。寺口学芸員は「民家から江戸時代の古文書が見つかった例もある」という。ゴールデンウィークにあわせて、損壊した家屋を整理する住民もいるとみられる。「倒壊家屋の片付けなどで古いものが見つかった場合、捨てずに役所へ連絡してもらいたい」と呼びかけている。(久保智祥)