京都市伏見区の絵本店「絵本のこたち」が4月中旬、初めての絵本「ちいさい舟」を出版した。80年以上前に巨椋池が干拓されるまで、小舟とともにあった人々の暮らしに思いをはせた。文は店主の熊谷聡子さん(53)、絵は夫で美術家の誠さん(56)が担った。

 店は2018年にオープンした。京阪中書島駅から歩いて20分ほどの場所にある。昨年、新たに出版レーベル「UEMON BOOKS」を立ち上げた。

 かつて店の近くには巨椋池(約800ヘクタール)があり、沼も点在していた。1941年に干拓が完了するころまで、一帯は水害が頻発した。このため避難用に小型の舟を備えていた家も多かった。約2年前に解体した誠さんの実家の屋根裏からは木製のシンプルな舟が見つかった。

 そんな実話をもとに構想をふくらませ、絵本ができあがった。誠さんは鉛筆やアクリル絵の具で描いたという。

 「なんでもないひの小さい舟はどんなふうにすごしていたのだろう?」。絵本の中にこんな一文がある。聡子さんは「きっと漁にも出ていた」と考える。

 「小さい舟でまかなえるような生活圏や暮らしが、干拓前にはあったかもしれないということを書き留めておきたかった」

 絵本には、舟や沼、家、高架などが様々な角度から描かれている。人は出てこない。でも、確かに人々の小さな営みがあったことを感じられる。

 現代では舟を使った暮らしは姿を消した。聡子さんは干拓や治水工事で水害を減らした面もあり、時代の変化は必ずしも悪いことではないと考えている。「絵本を読んでもらい、時代の変化の速さや昔の暮らしを考えてもらえたらうれしい」

 店では24日まで原画展も開いている。営業は午前11時〜午後6時。月曜と木曜は定休日。

 絵本はカラーで32ページ。税込み2200円。問い合わせは絵本のこたち(075・202・2698)。(西崎啓太朗)