全国的にみて文化財の数が多い栃木県が、所有者向けの保護・活用の支援を本格化している。多額の修理・整備費を負担するケースがある中、セミナーを開催したり、アドバイザーを派遣したりしてノウハウを支援。今年度は、活用方法を助言してもらう「県文化財オフィサー(CAO)」も新設した。

 県が今年度から始めたのは、文化財を地域で支える仕組みづくりの事業。国や県の指定文化財の修理・整備には一定の割合の補助金が出るが、所有者も費用を負担する。その額が多額で重荷になり、文化財の継承に影響が出る可能性があることが事業開始の背景にある。

 文化財の修理には数百万円以上かかることがあり、足利市の寺での複数の仏像修理費用は1千万円から5千万にのぼった。クラウドファンディング(CF)で資金を募るケースも目立ち、益子町の古民家の門の修理については、800万円を目標額にCFで資金を募った。

 県の事業では、資金調達の情報を共有化するため、セミナーを開催してCFや財団による助成金の情報を説明。寄付を幅広く募ることができるように、学識経験者らによるアドバイザーを派遣、文化財の魅力や修理の必要性の発信の仕方などを助言する。

 2019年4月に施行された改正文化財保護法は、文化財の「保存」とともに「活用」にも重点を置いている。県の事業では、文化財を活用して理解を高めることにより費用の支援の輪を広げようと、国や県指定の文化財を活用したイベントを開いたり、修理の様子を公開したりする場合の費用の補助も盛り込んだ。

 県文化振興課によると、指定文化財など国や県にかかわる文化財の数(23年度までの統計)をみると、栃木県は全国9位で、関東地方では東京都に次いで2番目に多い。統計の時期は異なるが、4月1日現在の同様の文化財は約1400件にのぼる。同課は「事業を通して文化財の現状や魅力を知ってもらい、支援に協力していただければ」と呼びかけている。

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 今回の文化財支援策の中心のひとつが、県のCAOの新設だ。国学院大学大学院で民俗学を学びながら、岡山県総社市で古代米栽培の神事の継承をする「赤米大使」を務めるなど、各地で文化財に関する活動に積極的に関わっている歌手の相川七瀬さん(49)に委嘱し、SNSなどによる情報発信力に期待した。

 CAOの新設により、文化財を地域で支える仕組みづくりの事業について知ってもらい、支援の輪が広がっていくことが狙いだ。福田富一知事は4月の定例会見で、文化財の保護・継承について「危機的状況にあると認識している」と警鐘を鳴らし、背景に相続人の居住地などが理由で管理しづらかったり、費用負担が増したりしていることを挙げた。その上でCAOには所有者と「キャッチボールができる関係」を築き、助言につなげてもらうことにも期待すると述べた。

 相川さんは16日の委嘱式で「文化財を継承していくことはとても難しい」と語り、文化財が教育・文化面で県民に還元されるシステムの必要性を強調。式終了後の報道陣の取材に「日本中、そこから世界に向けて発信できるようにがんばりたい」と抱負を述べた。(石原剛文)