抜けるような五月晴れと季節外れの暖かさに包まれた、大型連休後半戦の富士スピードウェイ決戦。史上初の“3時間タイムレース”で争われた2024スーパーGT第2戦『FUJI GT 3Hours RACE』GT500決勝は、戦前にも「決勝に自信あり」と語っていたニッサン/NMC陣営が完璧なレースを披露し、独走状態へ持ち込んだ高星明誠と最後の逃げを託された三宅淳詞の3号車Niterra MOTUL Zが今季初優勝を達成。三宅にとってもうれしいGT500初優勝であると同時に背後の2位には23号車MOTUL AUTECH Zが続くなど、新型ニッサンZニスモGT500の初勝利をワン・ツー・フィニッシュで飾ってみせた。

 快晴に恵まれたゴールデンウイーク後半初日、走り出しから好調さを披露したのは開幕戦で0周リタイアの憂き目にあっていた17号車Astemo CIVIC TYPE R-GTで、予選では塚越広大と太田格之進の両ドライバーがその鬱憤を晴らすかのようなアタックを見せポールポジションを獲得。ホンダ期待のニューモデル、FL5型シビック・タイプR-GTに初の栄誉をもたらした。

 そんなデビュー2戦目にして最速の座を射止めたホンダ陣営に対し、近年の富士で“直線番長”の座を維持してきたニッサン/NMC陣営も、今季2024年よりベース車両をZニスモに更新して車両バランスの最適化を進め、今回は3号車Niterra MOTUL Zと23号車MOTUL AUTECH Zの2台がそれぞれ2番手、3番手グリッドを手にすることに。陣営内で今シーズンよりブリヂストンタイヤにスイッチした当該の2台ながら、すでにロングランでのペースにも自信を滲ませるなど、決勝3時間の長丁場に向け“17号車包囲網”を形成する。

 一方、お膝元の富士で前方グリッドを獲得したかったトヨタ陣営は、同じく開幕岡山をアクシデントで落としていた14号車ENEOS X PRIME GR Supraの7番手を最上位としていたが、ここで大嶋和也がスタートスティントを担当するクルマはグリッドへの試走でピットを離れずタイヤ四輪交換を決断。ポカリと空いてしまった7番手グリッド以下、ずらりと12番手まで並んだ残る5台のGRスープラが決勝での浮上を期す展開となった。

 定刻13時30分のパレード&フォーメーションラップ開始時点で、気温は23度ながら、路面温度は41度という夏を感じさせるコンディションのなかスタートの瞬間を迎える。

 ここで大外から一直線にブレーキングゾーンへと向かった2番手発進の3号車Niterra高星明誠が、立ち上がりのアウト側から回り込むようにして首位浮上に成功。その後方では10番手スタートだった38号車KeePer CERUMO GR Supraも、7番手へと大きくポジションを上げ、トヨタ陣営の先陣を切る。

 ここから30分は大きな変動なく、集団内では前日の予選で悔しい黄旗区間タイム更新でQ2セッション4番手タイムを失っていた16号車ARTA MUGEN CIVIC TYPE R-GTの佐藤蓮が、6周目に64号車Modulo CIVIC TYPE R-GTを。続く8周目には19号車WedsSport ADVAN GR Supraを仕留めて11番手へ。この間、スピードトラップでは295.082km/hの最高速も記録していく。

 さらに前方では開幕戦ウイナーの王者36号車au TOM’S GR Supraもペースを上げ、坪井翔が僚友37号車Deloitte TOM’S GR Supraの前9番手へ出ると、直後に介入したFCY(フルコースイエロー)の解除を狙い、39号車DENSO KOBELCO SARD GR Supraもパスして8番手まで進出。同じタイミングで、決勝前ウォームアップ走行では良好なレースペースを確認できていた38号車KeePerの大湯も、長らく攻略を続けてきた100号車STANLEY CIVIC TYPE R-GTをオーバーテイクする。

 そして20周目を過ぎ295.890km/hの全体最速を記録した3番手の23号車MOTUL AUTECH千代勝正は、ペースの衰えてきた前方の17号車に照準を合わせると、23周目のターン1でやはりアウト側から仕掛けていく。このままターン2を並走した2台は、続くコカ・コーラでイン側を抑えた千代に軍配が上がり2番手へ。これでZニスモがワン・ツー体制を築く。

■表彰台目前でまさかのトラブル

 レース1時間経過を前にした30周目に、トップ10圏内を窺っていた16号車ARTAが最初のピットへ向かうと、続く周回で12号車MARELLI IMPUL Z、さらに37号車と次々にルーティン作業に入っていく。ここで34周目に飛び込んだ8号車ARTA MUGEN CIVIC TYPE R-GTだけが、作業静止時間45秒でドライバー交代を行って野尻智紀へスイッチする。

 続く17号車Astemo、100号車STANLEYもそれぞれ35周目に41.2秒、36周目に46.0秒でドライバー維持のままダブルスティントへ。一方で、ちょうど1時間経過の39周目で飛び込んだ23号車MOTUL AUTECH Zは、ロニー・クインタレッリに交代して48.7秒でピットを後にするなど、各陣営で判断が分かれていく。

 その差が出た格好か。41周目にはダブルスティントの17号車塚越がアウトラップを終えた23号車クインタレッリを捉え、ターン1でポジションを取り戻す。その間にもルーティンを終えた38号車KeePer、36号車auも、ともに石浦宏明、山下健太がステアリングを引き継いでいく。

 全15台が最初のピットを終え、ファーストスティント序盤のトップ3に戻った先頭集団は、首位をいく3号車Niterraの高星が44周目に1分29秒559とここへきてファステストを更新する速さでギャップ拡大を目指す。翌ラップには17号車Astemoも1分29秒973と反応して自己ベストを更新するも、その差は50周時点で約15秒にまで拡大する。

 時刻は15時を回っても路面温度は40度を維持するなか、55周目にはふたたび1分29秒810へと自己ベストを更新した17号車Astemoに対し、3番手の23号車MOTULはジリジリとペースが落ち始め、8号車ARTAを駆る野尻が背後に迫る。

 63周目の100Rではテール・トゥ・ノーズで追走するさなかにGT300クラスと交錯し、一瞬バランスを乱す危うい場面も潜り抜けながら、70周を過ぎたところでついにポジションを奪取。今度はバックマーカーの混走条件も活かし、ターン1で表彰台圏内に入っていく。

 ここから最後のルーティンピットを迎え、平峰一貴にスイッチした12号車MARELLIを皮切りに、続くラップで17号車Astemoは塚越から太田へとバトンタッチ。そして76周目にピットレーンへ向かった首位の3号車Niterraは高星から三宅へと交代し、47.9秒の静止時間でコースへと戻っていく。

 そして78周目には23号車が、続く周回で8号車がともにドライバー交代を敢行し、スタートドライバーの千代と松下がふたたびドライバーズシートへ。ここで前者が42.9秒だったのに対し、後者は49.2秒の静止作業時間となり、先にアウトラップを終えた千代が1分29秒878の自己ベストも刻むラップで8号車の攻略に成功。80周目のヘアピンでピットアウト直後のシビックを抜き去り、ニッサン陣営がふたたびのワン・ツー体制を取り戻す。

 終盤90周の時点で3番手の8号車ARTAと4番手17号車Astemoの差が0.812秒へと詰まり、ここから2台の熾烈な表彰台争いが勃発。94周目から複数周回にわたってコース全域でサイド・バイ・サイドを繰り広げ、最終コーナーをスライドで立ち上がりながらも先輩に挑んだ17号車太田だったが、ラインクロスから要所を閉めるARTA松下が古巣の後輩を巧みに封じていく。

 そのまま103周目には100Rからの脱出で果敢な挑戦を見せた太田も、ヘアピンで止まり切れずにオーバーシュートし、惜しくも4番手のまま……かと思われた運命の110周目。最終コーナーを立ち上がった3番手松下のシビックは力無くスローダウンしピットエントリーへ。ここへ来てまさかのミッショントラブルで、開幕戦の雪辱を果たせぬままレースを終えてしまう。

 首位を行く3号車Niterraの三宅は、高星から受け取った20秒以上のマージンを活かしつつ、悠々のクルージングでGT500初優勝を達成。2位には23号車MOTULの千代が続き、ニッサン/NMCが盤石のワン・ツー・フィニッシュ。3位には17号車Astemoが続き、奮闘報われた太田と塚越も表彰台に登壇する結果となった。

 さらに4位にはコース上ではもちろん、ピット作業のたびにジリジリとポジションを上げ、坪井に繋いだ最終スティントでは5番手まで浮上していたチャンピオン、36号車auが46kgのサクセスウエイトを搭載しながらポディウム目前まで迫る好走を披露。同じく最終スティントの大湯が12号車MARELLIを仕留めた38号車KeePer CERUMOの続くトップ5となっている。

 新規定のもとで開幕2戦を終えた2024スーパーGTの次戦は、約1カ月後の6月1〜2日に三重県の鈴鹿サーキットで開催される『SUZUKA GT 3Hours RACE』だ。この第3戦は大会名からもわかるとおり、今戦と同じく3時間のタイムレースとなっている。