2024年の有力高校球児が一堂に集まるという、NPBスカウトからすればこの上ない機会であった。「第13回 BFA U18アジア選手権」に向けた、侍ジャパンU-18代表の選考を兼ねた合宿。レベルの高い選手たちが、同じ状況でプレーするのは、判断材料としては最適だからだ。各球団とも有益なデータを持ち帰った。


4月4日から3日間、U-18日本代表候補者強化合宿が奈良県内で開催された。全12球団のNPBスカウトが目を光らせた[左から阿南光高・吉岡、健大高崎高・箱山、報徳学園高・今朝丸、大阪桐蔭高・境、大阪桐蔭高・平嶋]

貫録を見せた健大高崎高・箱山


 NPB全12球団46人のスカウトが視察した合宿2日目。実戦形式の練習は午前、午後の各7イニング制で、投手1人が3つのアウトを取って交代という特別ルールで行われた。打者は第13回 BFA U-18アジア選手権(台湾)でも使用する木製バットで臨むなか、今春のセンバツで初優勝の原動力となった箱山遥人(健大高崎高)、同大会で2号アーチを放った正林輝大(神村学園高)が本塁打を放った。箱山は木製バットでの初本塁打。高校生NO.1捕手と称される右の強打者が貫禄を見せた。正林は「打球の飛び方はあまり変わらない感じがしました。振りやすさは低反発バットと木製ではバランスが違っていて、慣れているという感じでもない」と、感触については明言せず。正林は1打席目でも左越え二塁打を放っており、インパクトを残した。


神村学園高・正林は実戦形式の練習で、木製バットで本塁打を放った

花咲徳栄高・石塚の攻守走の三拍子に注目


 センバツ不出場組の中で、NPBスカウトの注目を最も集めたのは、石塚裕惺(花咲徳栄高)である。「実戦では少しのズレがあって対応しきれなかった部分はありましたけれど、ところどころは芯でとらえた当たりはありましたし、完全に打てなかった、という感じはなかったです」。実戦終了後にブルペン投球するセンバツ準優勝右腕・今朝丸裕喜(報徳学園高)のボールを見て「角度もあるし、球の勢いがありました」と全国のレベルを肌で感じる中、健大高崎高・箱山から甲子園優勝の秘訣を聞くなど親交も深めた。


今春のセンバツ不出場組では花咲徳栄高・石塚が最も注目された

 プロを本気で目指すようになったのは、2試合で6打数5安打2打点と結果を残した昨秋の関東大会終了後。ただ、花咲徳栄高・岩井隆監督からは「プレー以上に、視野を広くして、チームのための声かけも大事」と言われた。秋以降は冬季限定でキャプテンに就任し、多方面への目配り、気配り、心配りの感覚も磨いた。個人のテーマとしては「守備面です」とキッパリ。「足運びが良くてキャッチボールから低く強いボールを投げる選手ばかりでした」と刺激を受けた。高校通算20本塁打を誇る右の大砲についてDeNA・八馬幹典スカウトグループリーダーは「走攻守、三拍子そろっていて、総合力が高い。打撃はインパクトが強く、今年の上位候補に入ってくると思います」と評価している。

 センバツ2回戦(対神村学園高)でランニング本塁打を記録した境亮陽(大阪桐蔭高)は、50メートル走を5秒8で駆ける俊足だけでなく、1年秋は投手を務め、最速146キロを誇る本格派右腕としても注目された二刀流でもある。類いまれなスピードが特長で「身体能力の高さが魅力」と評価するスカウトが多かった。


大阪桐蔭高・境はセンバツでランニング本塁打を放つなど、スピードが光る

 石見颯真(愛工大名電高)は、昨秋まで外野手だったが、今春から挑戦した遊撃手としてのセンスに着目し、対応力の高さに今後も注目していくという声も聞かれた。


愛工大名電高・石見は攻守でセンスの良さが際立っていた

自信を植え付けた北照高・高橋


 左腕で目についたのが金渕光希(八戸工大一高)。最速144キロでカーブ、スライダーなど変化球の精度も高い。高橋幸佑(北照高)も注目を集めたサウスポー。今回の合宿で、自己最速を2キロ更新する146キロを計測。合宿直前まで行っていた関東遠征でも、練習試合で144キロと自己最速を更新し、急成長中だ。実戦では1安打、3奪三振、無失点。正林から見逃し三振を奪った真っすぐはキレ味抜群だった。「自分の課題であるバラツキがあったし、全体的なバランスもまだまだでした。でも、真っすぐは出力もあって、自分の思う球は投げられました。現時点の自分の真っすぐが通用し、自分の立場も分かった」と、胸を張った。


北照高の左腕・高橋は今合宿で自己最速を2キロ更新する146キロをマークした

 育ったのは神奈川県横浜市も、生まれは札幌市。2018年夏の甲子園に出場した北照高を観戦し、母の出身地の強豪校を一般受験で入学した。昨秋は72kgの体重が、食事改善とウエート・トレで80kgまで増え、投球にも力強さが出た。「高校入学時は球速が120キロ出たらいいかなという感じでした」という球速も25キロ以上アップ。「(実戦では)変化球はスライダーとカーブだけで勝負しました。右打者の内角への球は自信がありますが、自分よりすごい投手がいるので、この経験を生かしたい」と、貴重な経験を手にし、目標を夏へと向けた。

 右腕は今朝丸裕喜(報徳学園高)の評価が高い。センバツ決勝まで勝ち進んだため、疲労を考慮して今合宿での実戦登板は見送られた。187cmの長身で「体ができてくればさらに良くなる」という見方をするスカウトも多い。同じく186cmの長身で、最速154キロ右腕・平嶋桂知(大阪桐蔭高)は、実戦では打者6人をパーフェクトに抑えた。「今朝丸君と並んで素材がいい。球に力がある」と評価するスカウトもいた。昨春のセンバツから今春まで3季連続甲子園で勝利を挙げた高尾響(広陵高)は、総合力が高い。投球のうまさ、完成度もある。センバツ8強の原動力となった阿南光高・吉岡暖も持ち味を披露した。


2年春、2年夏、3年春と3季連続で甲子園で勝利を挙げている広陵高・高尾は安定感があり、総合力もトップレベルだ

 高校生は4月から6月にかけて最も伸びる時期とされ、今後、どう成長していくか、スカウトはさらに目を光らせる。

取材・文=沢井史 写真=牛島寿人