新宿・歌舞伎町のホストクラブの多くは、今月から売掛(ツケ)での支払いを全廃する方針を掲げる。社会問題化したことへの対応だが、その裏で悪質ホストたちは新たな手口に流れている。女性に消費者金融や闇金で入店前に金を調達させたり、クレジットカードを次々と作らせて限度額まで使わせたりするなどのやり口だ。被害者支援にあたる団体に寄せられた相談者の被害額は4億円を超え、相談者は増え続けている。(ジャーナリスト・富岡悠希)

●悪質ホストは「抜け道」を見つけている

「今までは売掛で困っている状況だったのが、それに変わって新しい手口が増えている」

悪質ホストの被害者支援をしている一般社団法人「青少年を守る父母の連絡協議会」(略称:青母連/玄秀盛代表)は3月30日午後、緊急の記者会見を開き、事務局長の田中芳秀さんがこう明かした。この会見には、テレビや新聞などの複数の記者が詰め掛けた。

歌舞伎町のホストクラブは4月からの売掛全廃に向け、1月から段階的に売掛の削減を進めてきたとされる。しかし、業界健全化を目指して導入されたはずの対応の裏で、悪質ホストたちは、しっかりと抜け道を見つけている。

記者会見や筆者による田中さんへの電話取材によると、新しい手口は(1)消費者金融や闇金で入店前に金を調達させる、(2)クレカを次々と作らせて、限度額まで使わせる、または、すでに持っているクレカで入店直後などに精算する――などがある。それぞれの手口が使われるケースもあれば、同時の場合もあるという。

20代女性Aさんは、両方のパターン。ホストから「お金を作れる」友だちとして男性Bを紹介される。AさんとBは、ID・パスワードを共有しながら、新しくメールアカウントを作る。さらにBは身分証や給与明細の画像を渡すようにAさんに指示。Aさん自身にクレジットカードを発行する3社に申し込ませたほか、Bは勝手に複数の消費者金融や銀行などに融資を依頼する。

この際、BはAさんの給与明細の画像を加工して、融資の総額を増やしていた。Bは、暗躍するスカウトと推定される。Aさんは、たしかに数百万円の金が使えるようになった。しかし、それは「店を持ちたい」などと口にしていたホストに騙し取られるかたちで消えた。

●歌舞伎町だけでなく、大阪や札幌にも被害が広がっている

また、女性の身分証が「人質」に取られる相談も増えている。悪質ホストはマイナンバーカードなどの提示を女性に求めたうえで、勝手に写真を撮る。後日、支払いなどでトラブルが起きた際、彼らが強気の態度に出る材料としている。インスタグラムの短尺動画「リール」で、カードをさらされた事例もある。

青母連に寄せられる被害相談は、昨年までは歌舞伎町の店が主だったが、最近は大阪や札幌などからも増えてきた。両地域では、ホストクラブが増加傾向にあることが原因とみられている。

被害の広がりを受け、青母連は地道な注意喚起に動いている。その一つが、全国の大学への呼びかけだ。大学のサイトでは、学生に「カルト宗教」への勧誘警戒を呼びかけており、同じように「悪質ホスト」も扱ってほしいとメールしている。

●68人、総額4億円超の売掛

3月30日の記者会見で、青母連は昨年7月20日に発足して以降の統計データを初めて公表した。

同月末までに、相談をしてきたのは400人近く。そのうち複数回のやり取りをするなどして「継続相談者」と扱えるのは343人だった。

このうち年齢の公表が可能な185人の内訳は、10代が27人、20〜25歳が121人、26〜29歳が26人、30歳以上が11人となった。

売掛の金額を公表できるのは68人に限るが、それだけでも総額4億143万円にのぼる。101〜300万円が23人、31〜100万円が15人でボリュームゾーンとなっているが、301万円以上も25人もいた。300万円を超える借金となると、そうそう返済ができないことは容易に想像がつく。

こうした現状を受けて、田中さんは次のように訴えた。

「青母連に寄せられる相談は、売掛廃止方針で減ったというわけではなくて、変わらず増えている。4月1日から新年度が始まり、大学生や新社会人が各地方の都心のほうに出ていく。繁華街や歓楽街に行くので、ホストクラブでの強引な勧誘について注意喚起していきたい」

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