あれは2022年のシーズン終了後のことだ。沢田圭佑投手はバファローズの戦力構想から外れた。球団から告げられ、旅に出ることを決めた。向かった先は沖縄だった。2泊3日、一人、目的もなく過ごした。部屋から東シナ海が見渡せるオーシャンビューのホテルを選んだ。

 「いったん旅に出ようと。とりあえず、沖縄でゆっくりしようと。何かあてがあったわけではなく、何をすることもなくぼーっと過ごそうと思い立ちました。ずっと野球のことしか考えていなかったので、そういう時間をつくろうと、自分のことを見つめ直してみようと思っていました」

 14、15日と沖縄・那覇で行われた古巣バファローズ2連戦の試合前に沢田はしみじみと思い出を振り返った。

 あの時、野球のことを考えず、ぼーっとした時間を過ごそうと考え沖縄に旅立った。しかし、気が付けば手術したばかりの右腕を触っていた。投げる動作をしてみたり、野球のことを考えていた。いったん、頭を白紙にしようと一人旅に出た。ずっと海を見て過ごした。その中で改めて気が付いたのは、自分は野球が本当に好きだということ。目を覚まして何かをしている時以外の時間は、ずっと野球のことを考えているということだった。もちろん、それは分かっているつもりではいたけれど、あの旅で、きらきら光る海を眺めながら改めて気が付いた。

 「海を見てぼーっとして帰ろうと思っていたのですけどね。ゆっくりしながらも結局、野球のことを考えている。ああ、俺、やっぱり、また野球のことを考えていると思いました」と沢田は当時を振り返り、ふふふと笑った。

 月日は流れた。その後、沢田は育成選手としてマリーンズ入団のオファーを受けた。そして、23年7月に支配下登録され昨年は17試合に登板し防御率1・08、2勝を挙げ、チームに欠かせないセットアッパーの地位を確立した。沖縄での古巣相手のゲームは1試合に登板して1イニングを無失点に抑えた。自慢の速球はうなりを上げていた。

 今、沢田は野球中心の日々を送っている。ホームゲームではまだ誰もいないような早い時間に球場入りして準備を始める。遠征先で外出することもなく、ずっとトレーニングを重ねている。「僕はずっとこうやって過ごしてきたので。これじゃないとこの世界では生きていけないと思っている。何よりも野球が好きなんで」とにこりと笑った。手術、移籍を経て千葉のマウンドで躍動している。記憶の中にはあの日、眺めたきれいな海面の景色が残っている。それは野球が大好きだと再確認した大事な思い出だ。

(千葉ロッテマリーンズ広報 梶原紀章)